⑨デキる不動産屋(1)

東京でフリーライターをしていたアラフィフシングル女子。東日本大震災を機に東北へ通い始め、2015年にはついに宮城県石巻市へ移住。現在は庭付き中古一軒家を購入し、会社も設立。愛猫のふーちゃんと共に大海原へ漕ぎだした、そんなドキドキハラハラな毎日を記していきます 

デキる不動産屋(1)

家財道具一式が残る

生活感あふれる物件。

人が住まわなければ

家は数年で廃れると聞きますが、

そこにはまだ

住んでいたご家族の品格ある

佇まいのようなものが気配として感じられ、

入ったとたん私の中では

グッと価値が引きあがりました。

 

不動産屋さんの情報によると、

先住のご家族も

昭和40年代に中古で購入。

したがって、

確かな築年数は分からないそう。

まあ、見た目的には、

普通の住宅街になじむ程度の古さなので、

築50~60年というのが

いい線かもしれません。

南向きの玄関脇には、

庭を眺める広縁が備わり、

正面には12畳の和室が

堂々と横に広がっています。

どこへ行くにも、

まずはこの和室に入ってから、

ダイニング、キッチン、お風呂へは左手、

トイレ、2階へは右手、という

不思議な間取り。

私の関西の実家も一軒家ですが、

父が数十年前に

新築で購入した建売住宅なので、

ここまで風情がある

昭和レトロな一軒家は、

ドラマや映画の世界みたいで

ワクワクしました。

 

水回りなどの設備も、

見たところは大丈夫そう。

黒いタイル張りの壁に

ステンレスの浴槽と

やたらレトロなお風呂に、

比較的新しい

リンナイのガス給湯器が備わって

「自動お湯張り」「追い炊き」も

できるようになっています。

これは賃貸だと、

家賃が上がる好条件!

そして2階には、

かつての子ども部屋と思われる

2つの和室が並んであり、

広いベランダからは、

石巻の街と山を

一望することができました。

もちろん、

相当古い中古物件ですもの、

残念、というか

不安な部分も多々ありました。

どこまでがその影響かは分かりませんが、

岩盤でできていると言われる高台にあり、

津波被害はなかったものの、

東日本大震災の揺れを

体験した木造住宅。

素人目にも、

あちこち歪んでいるのが分かります。

その他、

雨漏りなど重大な欠陥があっても、

住んでみないと分からないという

リスクがありました。

入ったとたんに心奪われ、

かなり乗り気になっていた私も、

リフォームや修繕費用を考えると

ちょっと待てよ、と

さすがにブレーキがかかりました。

そのタイミングで

不動産屋さんがひとこと。

 

「実は今、交渉中ですので

この家、もっとお安くなると思いますよ」

 

さすがは代表取締役。

一見、頼りなさそうですが、

実はすごーく仕事ができる

男のようでした。

(つづく)

1階、12畳の和室。風情ある欄間にふーちゃんが、得意げに昇ります

塩坂佳子(しおさか・よしこ)

1970 年生まれ、大阪府高槻市出身。関西学院大学文学部卒業後はアルバイトなどを経験し、25歳でフリーランスのライター兼編集者として開業。2000年に大阪を出て、友人が住む小笠原諸島父島へ。釣り船の手伝いなどをして島暮らしを満喫、その様子を雑誌に連載するなどして2年間の長期滞在を楽しんだ。その後、板橋区へ移住し、東京でのライター・編集業を本格始動。主な仕事は結婚情報誌「ゼクシィ」や「婦人公論」などで執筆。出版社との契約で中国上海市に1年間駐在、現地編集部の立ち上げと雑誌創刊などにも関わった。

東日本大震災後は、震災ボランティアとして宮城県を中心に訪問。2013年には、上海在住のイラストレーター・ワタナベマキコと共に、東北の名産品をユニークなキャラクターにした東北応援プロジェクト「東北☆家族」を立ち上げ。東京に住まいながら活動を続け、2015年秋に宮城県石巻市へ移住。2年間は主に石巻市産業復興支援員として、復興や地方再生を促す街の情報発信を担当した。2017年9月には自分の会社を設立。現在は、自宅兼オフィスとして購入した築50年の庭付き中古一軒家をDIYでリノベーションしながら、愛猫・ふーちゃんと共に新生活をスタートさせたばかり。

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