⑭どうする!リフォーム
思いがけず、
石巻で家を買うという
大事件を起こした2017年。
手帳の記録によれば、
軽い気持ちで売りに出ていた一軒家を
見に行ったのが4月10日。
その2カ月半後の6月30日にはもう、
その大きな庭付き中古一軒家が、
私のものになっていました。
関西で暮らす親にも、
いつもながらの
事後報告であります。
私は幼少の頃から
かなりの効率至上主義者で
無駄なことが大嫌い。
何のためにやっているのかわからない、
というようなことが
大の苦手です。
ちょっとだけ言い訳をさせていただくと、
18歳で家を出て、
25歳からずっとフリーランスできたので、
常に仕事や
仕事に結びつくことをしていないと
不安だったのかもしれません。
いや、もしかしたら、
仕事や仕事に結びつくこと以外は
すべて無意味だと思う
その生来の浅はかさゆえに、
今なおフリーランスで、
シングルなのかもしれません。
いずれにしても、
私にはわからなかったのであります。
大層お金をかけて整えられたと思われる、
立派な日本庭園があるのに、
駐車場を持たないという
この家の状況が。
石巻は車が無ければ
日々のお買い物にも事欠く街ですから、
先住のご家族はおそらく、
2軒隣りにあるこの辺りで唯一の月極駐車場を
借りていらしたと推測します。
たしかに、
急な角度の細い坂の途中にある家なので、
物理的に難しかったというのは
あるのかもしれません。
しかし友人、知人の建築士
2人に相談したところ、
「難しいが、不可能というほどではない」とのこと。
とにかくこのままでは、
買った家に引っ越した瞬間から、
月々6000円の駐車場代が
発生することなります。
なにこの無駄!
私は正式に家を引き渡される前から、
業者さんを探し始めました。
汲み取りトイレを水洗にするため、
庭に穴を掘って浄化槽を埋め、
その上にコンクリートを敷いて
駐車場を作るという壮大かつ一石二鳥、
効率的なリフォームプランです。
そのためにはまず、
庭石や灯篭、
松や紅葉といった大木たちを
処分せねばなりません。
この「処分」にお金がかかると聞いて
私はまったく忌々しい気持ちになりました。
特に庭石は、
見る人が見れば分かるという
かなり高価なものばかりだそうですが、
造園のトレンドも変わり、
今では重機を手配して移動させてまで
欲しがる人は少ない
(というかほとんど皆無)だろうとのこと。
そのため建築士や不動産屋さんの見立てでは、
全部で150万円~200万円ほど
かかるのではないかということでした。
とはいえ、
家のお値段300万円と合わせて、
合計、最大500万円、
土地付き一軒家のお値段としては、
まだ安いと思われます。
しかし、
なかなか業者さんが見つからない。
壮大なリフォームプラン、
本来は解体、穴掘り、浄化槽、
トイレなどの水回り、コンクリート施工と
すべての工程で別々の業者さんに
頼むことになるのだそう。
特に石巻という小さな街には
全部をまるっと引き受けられる
会社が少ないようでした。
それでもなんとか、
ネットで検索して見積もり依頼をしたり、
知人に紹介してもらって
3~4社に来てもらったのですが、
我が家の外観を見たとたん
皆さん開口一番、
「ありゃー!」と声を上げ、
いかに難しい工事になるかを
こんこんと説明する、
そんなことばかりが続きます。
ええ、ええ。
分かっております。
難しいのは分かってますよ。
そこをなんとかしてやろう! という
気概ある職人さんはいないものか。
仙台辺りには大きな会社も
数あるようでしたが、
遠方から来てもらうと、
その分、費用が高くなってしまいます。
そんなこんなでリフォームについては
凍結したままとりあえず引っ越し、
近くに駐車場を借りて
一軒家暮らしをスタートさせました。
まだ手のひらサイズだった
子猫のふーちゃんとともに。
数年間、空き家だったことから、
家中にほこりがたまり、
お風呂の天井には黒カビが生え、
掃除や整理は大変でした。
それでも少しずつ、少しずつ、
自分好みの空間に変わっていく快感!
我ながら良い買い物をしたなあ~と
つくづく思わない日はありません。
しかしやはりネックは、
昔ながらの陰気な汲み取り式トイレ。
入るたびにテンションが下がります。
一方、駐車場のほうはというと、
月々の出費をいつまでも
続けたくないとは思いつつも、
しばらくはこのままでもいいかな、
という気がしてきました。
なぜならそれは、
さすがにこの私にも、
お庭の良さがじわじわと
分かってきたからであります。
6月、7月、8月と
季節ごとに
違う花が順番に咲いていきました。
私の乏しい目には、
雑草にしか見えなかった茂みの中から、
ある日突然、
色鮮やかな花が出現するその驚き。
ほんの数日から数週間しかもちませんが、
終わるとまた別の場所から
また別の花が出現するといった
サプライズな出来事が続きました。
それはまるで
スポットライトが舞台の上を移動して、
次々とスタアを照らしていく、
タカラヅカ劇場。
あるいはひとつの宇宙が、
この庭の内に成立している、
そんな感動がありました。
つまり、それだけ計算され尽くした
お庭だったのであります。
眺めているだけで、
「何も考えなくても」、
「仕事に直結しなくても」、
心が潤うという
今までの人生では経験したことのない
魔訶不思議な時間が
もたらされたのであります。
なんでしょう、
この豊かさ。
いい業者さんが見つからないと
まごまごしている、
そのまったく無駄に思えた時間のおかげで
私はこの家の一番のお宝に、
気づくことができました。
(つづく)
塩坂佳子(しおさか・よしこ)
1970 年生まれ、大阪府高槻市出身。関西学院大学文学部卒業後はアルバイトなどを経験し、25歳でフリーランスのライター兼編集者として開業。2000年に大阪を出て、友人が住む小笠原諸島父島へ。釣り船の手伝いなどをして島暮らしを満喫、その様子を雑誌に連載するなどして2年間の長期滞在を楽しんだ。その後、板橋区へ移住し、東京でのライター・編集業を本格始動。主な仕事は結婚情報誌「ゼクシィ」や「婦人公論」などで執筆。出版社との契約で中国上海市に1年間駐在、現地編集部の立ち上げと雑誌創刊などにも関わった。
東日本大震災後は、震災ボランティアとして宮城県を中心に訪問。2013年には、上海在住のイラストレーター・ワタナベマキコと共に、東北の名産品をユニークなキャラクターにした東北応援プロジェクト「東北☆家族」を立ち上げ。東京に住まいながら活動を続け、2015年秋に宮城県石巻市へ移住。2年間は主に石巻市産業復興支援員として、復興や地方再生を促す街の情報発信を担当した。2017年9月には自分の会社を設立。現在は、自宅兼オフィスとして購入した築50年の庭付き中古一軒家をDIYでリノベーションしながら、愛猫・ふーちゃんと共に新生活をスタートさせたばかり。
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