⑨よしっ!新年

東日本大震災が起きるまでは、福島県との県境に近い宮城県丸森町の里山で、家を手作りし、自給自足に近い生活を送っていた5人家族。原発事故の一報を受け、夫の母国、イギリスへ渡ることを決断。着の身着のまま日本を脱出したあの時から今日までを妻であり母である、チエミが振り返ります

⑨よしっ!新年

新たな年を迎えました。
放射能の危険から子供たちを逃すために、
何も持たずに家を出たあ の瞬間から8年が経過。
ついこの間のことのようにも感じるし、
は るか昔のことのようにも感じます。
自分ではその月日の感覚が
あま りピンときません。
ただ、あの年に生まれた赤ちゃんが
今年は8歳 になると思うと、
そんなに月日が流れたんだな~と思います。
日本では、
年を超えるのはとても神聖な行事ですね。
ここイギリス では、
クリスマスが一年の一大行事なので、
それが終わると気が抜 けたように、
街も静かになります。
元旦は祝日ですが、
2日からは会社も普通に始動します。
年の瀬のある日、
本棚の整理をしていて、
20年ほど前に一度読ん だことがある
心理学の本をぱらぱらとめくっていたら、
こんな言葉が目に飛び込んできました。
【守破離】。
これは武道や 茶道など、
日本の『道(どう)』において
よく使われる言葉で、
まずは師の教えや型を守り、
徐々に基本の型を破りながら、
最終的には師や型から離れて
独自のものを築く、
『日本のプロフェ ッショナル論』
ともいうべき思想です。
中高生時代、
剣道にのめりこんでいた私は、
剣道場などでこの言葉が書かれた掛 け軸を
よく目にしていたのですが、
取り立てて意味を考えるわけで もなく、
いつも素通りしていました。
この言葉と再会し、
私の中のアンテナがピン!と反応しました。
福島原発事故後の避難で、
家もなくなり、
夫婦二人して収入も途絶えたので、
目の前にある衣食住を、
ひたすらこなしていくことに必死でした。
数年後、それが少しずつ整ってきてからは、
その『普通の型』を少しづつ
『オー ルライト家らしい型』にしていき、
さらにこれからは、
『オールライト家にしかできない型』を作って いく。
この【守破離】という言葉は、
そんなイメージとすんなり重なってくれました。
『守』に必死だった時期は、
全く前進せず
そこで足踏みしているよ うなもどかしさがあり、
早く『破』 に向いたいという
焦りばかりでしたが、
今振り返ると、
あの時の『 守』があってこそ、
これからの『離』があるのだと思います。
『 あれでよかったんだ』と思えた瞬間、
あの時の自分、そして、
決し て楽ではなかったあの時を共にした家族が、
とても愛おしく感じま した。
新たな年、
『よしっ!』っとちょっと背筋を伸ばして、
顎をちょ っとあげて
歩みだしたい気分になりました。

2018年初春、書初めをしました

【オールライト千栄美】:1972年石巻市生まれ。イギリス人の夫と長女(16歳)、長男(15歳)、次男(12歳)の5人家族。再生可能な環境開発を専門とする夫と共に、“都会とは全く違う環境で行う、ビジネスマン向けリトリート施設の建設”という構想を抱き、2008年、宮城県と福島県の境にある小さな山里に移住。その構想の第一歩として、“西洋と東洋の伝統に自然を融合させた新しい技術”をコンセプトにした家づくりを2011年3月11日午後2時45分(つまり、東日本大震災勃発の瞬間)まで家族で行う。その後、夫の母国イギリスへ。現在は、オンラインで日本に英語レッスンをお届けする【英語職人】を生業とする。https://chiemiallwright.wixsite.com/online-eikaiwa

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