大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)
液晶テレビで一世を風靡し、
現在はスマートフォンの
液晶パネルなどを作っている
シャープ亀山工場(三重県亀山市)で、
大勢の外国人が、
雇い止めに遭っていたことが
明らかになりました。
その数は3000~4000人と
みられています。
多くは日系ブラジル人などで、
家族も呼び寄せていた人たちもいます。
一方、内閣府によると
国内の景気拡大は
2016年12月から58カ月と
戦後2番目の長さに達したそうです。
ただ、多少のでこぼこはあって、
そのたびに
企業活動が微調整されています。
どこで調整するかというと、
やはり一番弱い部分なのですね。
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シャープは
過去の過剰投資がたたって、
一時、経営危機に陥りました。
救済をめぐり
日本政府系機関と
台湾の鴻海精密工業が綱引き。
すったもんだの末、
鴻海がシャープを手中に収め、
再建を主導してきました。
実はシャープは
〝外資系〟企業ともいえます。
大胆な投資やコストカットで
再建を果たしましたが、
iPhone関連の部品受注が減ったことで、
亀山工場での生産を抑制し、
その結果、
雇用削減に至ったようです。
三重県の調査によると、
会社都合による退職は
約700人にとどまり、
自己都合が3000人強だそうですが、
外国人労働者を支援する
ユニオンみえ(三重一般労働組合)は、
自己都合も
「辞めるように迫られた」結果だと
主張しています。
雇い止めされた外国人は、
家賃が払えず、
いつまで住み続けられるか分からないし、
子供の学校はどうすればよいのか、
など悩みは尽きません。
ただ、この問題では
シャープは矢面に立ちません。
外国人労働者を直接雇っていたのは、
下請け会社なのです。
アップルが発注を減らし、
シャープが合理化を迫られ、
下請けにしわ寄せがいき、
労働者が泣きを見た、
というわけです。
「下請けいじめ?
そりゃ、やりますよ。
そうしないと、
どうやって生き残っていくんですか」。
建設業界を担当していた十数年前、
大手ゼネコン(総合建設業)の幹部から
聞いた言葉です。
下請けいじめに関する記事が載った
週刊誌をみながらの雑談でした。
こうもあっさり認めるかと
笑ってしまいました。
流通業界を担当しているときは、
プロ野球の優勝セールで
百貨店が納入業者に
「協力」を強くお願いするという
話も聞きました。
中小の業者からは
「だから地元チームには
優勝して欲しくない」という本音が
漏れ聞こえてきました。
重荷を背負い込まされる中小企業は
どうすれば良いのか。
その答えが、
今回のシャープ亀山工場での出来事に
簡潔に現れています。
企業経営というのは、
なかなか進歩しないものですね。
景気が回復して
大企業や高額所得者が潤えば、
やがて中小企業や低所得者層にも
恩恵がしたたり落ちて行くという
「トリクルダウン」理論。
政権が実現に
期待をかけたこともありましたが、
いまやほとんど
机上の空論とみられるようになりました。
しかし、
現実世界は残酷なもので
利益以外のものなら、
きっちりと下へ下へと
したたり落ちていく。
粂 博之(くめ・ひろゆき)
1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。
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