持たざること
高齢者の関係する事件は、
規模が大きくなり深刻さも増しています。
体力が衰えてはいるのですが、
身にまとっているモノやお金は
若い頃よりも、
そして昔の高齢者と比べても
はるかに豊かになっていて、
それがトラブルを誘発する
一因ともなっている。
モノやお金を豊かな暮らしのために
使いこなせれば問題ありませんが、
それができないようであれば、
手放した方がよいのかも。
人として、本当の幸せって何?
人生のベテランたちに、
ぜひ答えを見つけてもらいたいですね。
やりがいのあるチャレンジではないでしょうか。
神奈川県茅ヶ崎市で
90歳の女が運転する車が暴走して4人をはね、
うち1人が死亡しました。
暴走の原因は、
加齢に伴う判断力の低下などでしょう。
こうした事件は最近になって
頻発するようになりました。
ひと昔前の90歳というと、
自分で運転して出かけるなんて
少数派だったでしょうし、
高齢女性の場合はそもそも
免許を持っていないことの方が多かった。
しかし、今ではクルマがないと、
生活が難しい地域が増えています。
子供がそばにいれば
クルマで送り迎えをすることもできますが、
離ればなれの家族は少なくありません。
高齢だからといって
運転をやめるわけにはいかない。
大阪で暮らす私の両親もそうです。
津市内のある企業の役員が
6月いっぱいで退職されるというので、
ご挨拶に行ったところ、
「都会に引っ越します」とおっしゃっていました。
市内ではコンビニに行くのも通院するのにも
クルマは不可欠というところがほとんど。
「最近、高齢者の事故も多いですし、
明日は我が身ですよ」と。
代々引き継いできた築150年の家を
「いくらにもならないだろうけど」と売却し、
かつて暮らした東京で
終の棲家を探すそうです。
余分と思えるものは手放して、よっこらしょと
新たなライフスタイルを探るというのですから、
なかなか手間がかかります。
一方、高齢者が被害者となるのが、
オレオレ詐欺や特殊詐欺。
こちらも頻発しています。
先日、津市では80代の女性が
1億3000万円を超える現金を
詐欺グループにだまし取られてしまいました。
熊本県の復興支援に関する話を持ちかけられ、
弁護士を名乗る男やその秘書などが
入れ代わり立ち代わり登場し、
話をこんがらせていきました。
混乱した女性は
キャッシュカード3枚を手渡してしまい、
その後の指示に従って、
だまし取られたカードの口座に
14回にわたって現金を振り込んだそうです。
事件の概要を聞いて不謹慎ながら、
あるところにはあるもんだ、
と思ってしまいました。
しかし、なぜ被害者は
そんな大金を持っていたのか。
捜査当局は、プライバシーを守るため
女性がどのような人だったかは公表しておらず、
分かりません。
ただ、先に挙げたクルマの暴走と同じく、
判断力が低下していたのでしょう。
復興支援の資金として
個人から億単位で吸い上げるなど、
少し考えればあり得ないと分かるはず。
詐欺師の巧みな誘導があったとはいえ。
最近、はやりの終活は、
余分なモノをそぎ落としていくという側面があり、
それは何かを
「持っている」ことから生じるリスクを
減らすということにもつながります。
バブル崩壊後、経済界では
「持たざる経営」という言葉が登場しました。
不動産や正規雇用の従業員を抱えるよりも、
借地で派遣社員を使う方が、
景気変動の波を乗り切りやすいという知恵です。
色々と問題ははらんでいますが、
確かに合理的です。
年を取ったら「持たざる」暮らしに
移行することを考えるべきなのかもしれません。
「引退したら田舎でのんびり悠々自適」
というのは昔の話。
いま、新たなライフスタイルが求められています。
戦後から高度経済成長を生きてきた世代は、
常に時代の最先端に立っているのですね。
今もなお。
粂 博之(くめ・ひろゆき)
1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。
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