⑬突然の英国暮らし~『自業自得』

東日本大震災が起きるまでは、福島県との県境に近い宮城県丸森町の里山で、家を手作りし、自給自足に近い生活を送っていた5人家族。原発事故の一報を受け、夫の母国、イギリスへ渡ることを決断。着の身着のまま日本を脱出したあの時から今日までを妻であり母である、チエミが振り返ります

突然の英国暮らし~『自業自得』

夫、ギャビンさんの実家に居候させてもらい、

約18カ月が経過していました。

その家とは諦めかけていた時に

ひょんなタイミングで出会い、

やっとの思いで賃貸までこぎつけ、

まずは6カ月の契約をしました。

その家の最初の契約期間の最長が 6カ月で、

その後は更新が可能という事でした。

 

日本と住宅事情が全く違うイギリス。

賃貸専門物件という概念すら 薄く、

多くの賃貸物件は

家主が長期休暇で海外などに滞在してい る間に

不動産屋を通して貸すか、

もしくは 個人が投資目的で複数の家を所有して、

それを賃貸するかのどちらかが一般的です。

更に、土地の価格は

毎年着実に上がるような経済の仕組みの為、

価値が上がった時点で、

それを売りに出して儲けるわけです。

よって、家の借り手の方は

「 家主が家を売ることにしたので退去してくれ」

ということで泣く泣く退去させられることが多く、

社会的にも問題になっています。

退去に関しても、家主は1か月前に

借り主に告知をすればよいことになっており、

法的にも保護されている一方、

借り手側は、いつ出て行けといわれるか

怯えながら暮らすという構造は、

保守政権下である限り

変わることはないのだとか。

なにせ、他国の土地の侵略を繰り返して

壮大な帝国を築いた国ですから、

昔から土地と権力との結びつきは

とても強いのだと思います。

とても古くいろいろ不具合があり、

そのエリアでは最安値の家。

ソファーもテレビもない生活でしたが、

予期せぬ避難から次のステップに移ったという

新鮮な気持ちが日々を支えてくれました。

そして5カ月が経過。

家主から一通の手紙が届きました。

その家を売ることにしたので、

1か月後に退去してほしいというのです。

や っと、少し穏やかな暮らしが始まると

思った矢先のことでした。

これにはさすがに参りました。

数日間は放心状態でしたが、

「これが噂のイギリスの家主と借り主の関係か」と

まずはぐいっと呑み込み 、

余計な事はできるだけ考えないようにして、

もくもくと何かに取りつかれたように、

5カ月前に荷をほどいたばかりの箱に

また荷物 を詰め始めたのでした。

どうもがいても、

こればかりは仕方ありません。

非情なようではあ りますが、

家主はただ契約更新をしないというだけで

何の違反もありません。

「とにかく何も考えず、

今やらなければならないことを淡々とやる」

と肝に銘じました。

しかし、 やはりところどころで、

おさえきれぬ感情が沸き起こります。

原発と家主に対する怒りと悲しみ、

住宅難が深刻なこの国で、

次の家が見つからないかもしれないという恐れ……。

中でも一番私が飲み込まれてしまいそうになったのは

「無力感」です。

原発事故と家主の都合という、

自分ではどうしようもできない事情に

ただ振り回されるだけ。

ここまでの無力感を感じたのは

初めてだったかもしれません。

しかも、

子供三人をそれに巻き込んでいると思うと、

たまらなく申し訳ない気持ちでした。

ある日、

仕事で少し関わったことがある宮城の知人

(友人というほどは親しくありませんでした)

とのメールで、

このことをちょっとだけ

こぼしてしまいました。

そしたらその知人は、

「でもそれは自業自得だよね」

と返してきました。

その知人は常々、

「夫の仕事と子供の学校のことを考えたら

避難したくてもできない」と話していたので、

「避難なんてしなくてもよいのに、

あなたが自ら選んだん だから」

という意味が

込められていることはすぐに分かりま した。

私はきっと、

その人からの優しい慰めの言葉でも

期待していたのかもしれません。

「えっ?」と一瞬固まってしまいましたが、

次の瞬間、

無性にこの言葉に納得してしまったのです。

「そうだ。自業自得なんだ。

だいたい、

ギャビンさんの母国といっても、

20年以上外国で暮らしてきた人が、

仕事も住むところもなく

家族を連れて帰って来ても、

簡単に住めないのは当然かもしれない」

と、

やけに腑に落ちてしまいました。

それまでは、

原発事故と家主という

「自分以外の何か に振り回されていることに

ひどく無力感を抱いていましたが

「これは自分たちで決めた事。

それにはたまたま困難が伴っている」と

「自業自得」という言葉に、

私はなぜか

「自分で選んだんだからとにかく頑張ろう」 と

励まされてしまったのです。

あの時、

子供たちをあの場から遠ざけてあげなかったら、

自分自身を一生許せなかったかもしれません。

やはりあの時は、

それしか選択肢がなかったのです。

「 この困難は私たちの選択に

もれなくついてきてしまったもの」

そんな見方に変えると、

不思議と力が湧いてくる気がしました。

先日、イギリスに6年ぶりに大雪が降りました。長女16歳は「日本みたーい!」とはしゃいで雪とたわむれていました。

【オールライト千栄美】:1972年石巻市生まれ。イギリス人の夫と長女(16歳)、長男(15歳)、次男(12歳)の5人家族。再生可能な環境開発を専門とする夫と共に、“都会とは全く違う環境で行う、ビジネスマン向けリトリート施設の建設”という構想を抱き、2008年、宮城県と福島県の境にある小さな山里に移住。その構想の第一歩として、“西洋と東洋の伝統に自然を融合させた新しい技術”をコンセプトにした家づくりを2011年3月11日午後2時45分(つまり、東日本大震災勃発の瞬間)まで家族で行う。その後、夫の母国イギリスへ。現在は、オンラインで日本に英語レッスンをお届けする【英語職人】を生業とする。https://chiemiallwright.wixsite.com/online-eikaiwa 

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