ゆるキャラ、骨抜きの危機
メジャーになりきらず、
マニアックを一歩出るか
出ないあたりが
一番面白い、と思います。
みうらじゅん氏が名付けた
「ゆるキャラ」もその一つ。
ですが、
地域おこしにつながるとあって
行政機関も乗っかってきました。
「ゆるキャラグランプリ(GP)2018」では、
三重県四日市市が
公認キャラ
「こにゅうどうくん」を
優勝させるため、
職員を動員して
大量の組織票を投じていたことが
発覚しました。
「ちょっとおかしいんじゃない?」
という私のゆるいツッコミに、
担当者は
「職員一人一人が
市のイメージアップの担い手ですから」
とお堅い返答。
お上が絡むだなんて、
ゆるキャラも
何だか
つまんなくなってきました。
四日市市では、
こにゅうどうくんの
グランプリ1位を目指す
市民の勝手連も結成され、
市役所とともに投票を
各方面に訴えていました。
先日、私のいる支局にも
勝手連の方が来て
「記事にして盛り上げて」と
熱弁をふるいました。
曰く、
こにゅうどうくんは
中間集計で1位になったが
相当な競争になっていて油断できない、
四日市市よりも人口の少ない
まちのキャラクターに
負けるわけにはいかない、
県内では四日市以外で
盛り上がりに欠ける…云々。
それでは、まあ、
と記事にしたわけですが。
ちょうど1週間後、
毎日新聞に
驚くべき特ダネが。
「ゆるキャラGP
四日市市が大量組織票」。
抜かれてしまった、まいったなあ、
と市役所に取材すると、
おおむね毎日新聞の
記事の通りでした。
市役所は
約2万のフリーメールアドレスを取得、
各アドレスを使って
投票に必要なID登録をし、
職員に配布していました。
1つのIDで
1日1回投票できるという仕組みです。
職員は奨励されて、
職務時間中に業務用パソコンを使って
せっせと投票していました。
四日市市の職員は約3700人なので、
水増しは相当なものになりそうです。
担当課長によると
「四日市のイメージアップ作戦なのに、
市役所が何もしないわけにはいかない。
市民のみなさんからも
『市は何かしているのか』と
おしかりを受ける」
というのが理由で、
「組織票といわれるのは心外だし、
不正ではないと考えている」
とのことでした。
いや、しかしですね、
全国の人が
各地のキャラクターを比べて
投票して決めるわけですから、
四日市市としては
全国へのアピールが
第一にやるべきことじゃないですか、
選挙と銘打っているからには
公平であるべきだし、
市役所の組織票で1位になったって、
それはちょっと違うでしょう…
と言ってみたのですが
通じません。
「四日市というと
公害のイメージが
いまだに強くてですね。
こにゅうどうくん日本一、
といった明るい話題で
全国にアピールしたいんですよ」
と切実な訴え。
そして「市では今年度、
シティプロモーション部という
組織を立ち上げたところでして」。
市役所として
分かりやすい成果を求めていることも
底流にはあるようです。
その上で
「たとえば○○市なんて
人口が10万人ほどなのに、
キャラクターは上位に入ってるんですよ」
と公務員を動員しての
組織票を投じることは、
一般化しているとほのめかします。
ゆるキャラの知名度アップは
市政の重要課題だ→
実現するにはGP優勝だ→
そのためには票を稼がなくてはいけない→
良い方法はないか→
そうだ、IDを…。
公務員は生真面目であってほしいけど、
木を見て森を見ず、
の感もあります。
こうなってくると、
今後「人気がある」と公に認定される
メジャーなゆるキャラって
いかがなものか、
と思いますね。
知名度は低くてメジャーになれなくても、
地元の人たちが楽しんでいれば、
その方が良いのではないか。
面白いけれども
メジャーになりきれない、
ちょっと情けないような風情があるから
「ゆるキャラ」なのであって、
だからこそ
愛されてきたのだと思うのですが。
粂 博之(くめ・ひろゆき)
1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。
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