㊳何やってんだか ふるさと納税

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

何やってんだか ふるさと納税

泉州(せんしゅう)と呼ばれる

大阪府南部。

タオルとタマネギが

特産品だったのですが、

泉州の真ん中に位置する泉佐野市は、

「ふるさと納税」の返礼品に

他地域産の高級牛肉などを用意し、

多額の寄付金を集めることに

成功しました。

ところが返礼品競争が

予想以上に過熱していることを

問題視していた総務省が

見直しを求めました。

「泉佐野で牛肉って、

『ふるさと』的じゃないだろ」と。

これに対し泉佐野市は

「特産品がないねんから、仕方ないやろ」

と反発。

なんともトホホな対立です。

総務省も市も不器用ですね。

 泉州の中でも南の方にある

阪南町(現阪南市)で私は育ちました。

山の上に立つ中学校までの通学路脇には、

収穫物を一時保管する

タマネギ小屋が点在していました。

傷んで捨てられたタマネギを

蹴りながら歩いたものです。

海の方に下っていくと、

古びたタオル工場がいくつか。

かつて工場経営者は

「ガチャマン」と呼ばれることもあったと、

小学校の社会科で学びました。

タオルを織る機械をガチャンと

1回動かすだけで

万単位のお金が入るという意味です。

1日に数え切れないほど

ガチャンとやるので、

大層儲かったのでしょう。

しかし、それも

私が小学生のころにはすでに昔話。

タマネギ栽培は、

兵庫県淡路島、

北海道が圧倒的に強く、

タオル生産も東南アジアや中国に

シフトしていました。

泉州のタオル業界は高品質の

「メイド・イン・ジャパン」をアピールして

巻き返そうとしていますが、

ガチャマン時代のようにはいきません。

返礼品競争で、

泉州は分が悪いようです。

 

一方、

私がいま仕事をしている三重県内では

伊勢エビなどの海の幸、

松阪牛といった特産が多く、

ふるさと納税に随分貢献しています。

少し前までは

真珠や家具までありました。

三重は真珠養殖発祥の地で、

和歌山との県境あたりに広がる

「熊野古道」で有名な山地は

木材が豊富だからです。

しかし、真珠や家具は

贅沢品で資産性が高い、と

総務省から物言いがつき、

返礼品リストから

姿を消してしまいました。

さらに今度は、

返礼品の価格は

寄付額の3割を超えないように、

地元産品を使うようにとの

お達しも出ました。

国は自治体をよく指導します。

「彼らは法律とか分かってないからね。

新しい制度1つ作れないんだよ」。

九州のある県庁に出向した

経験のある財務官僚が

得意げに話してくれたことがあります。

「だからね、

ボクが条例も作ったんだよ」。

そんな人たちからみると、

自治体が返礼品競争をするのは、

制度・法律の趣旨を

「分かってない」からということに

なるのでしょう。

ふるさと納税とは本来、

都市部に集中しがちな税収を

少しでも地方にも行き渡るようにし、

さらには自治体が特産品を

返礼品として調達することで

地場産業の発展を促すためものなのだ、と。

しかし、国も

「分かってない」のではないでしょうか。

どれほど自治体が税収を求めているかを。

そこに、

ふるさと納税のような制度が

導入されると何が起こるのかを。

ふるさと納税をした人は、

現住地の自治体に納めるべき

住民税や所得税が軽減されます。

自治体としては、

これを放置すると

税収は減ってしまうので、

ふるさと納税で取り返すそうとするのは

自然な流れ。

自治体にとって税収の増減は

切実な問題で、

競争は必定ですよね。

それを見越して

過度な競争とならないような

制度設計が必要だったのです。

現在のような

競争を想定しなかった国は、

さしずめ「フェアプレーで知恵を絞れ」と

正論で現状打破を試みている

といったところでしょうか。

自治体としても

「特産品がない?

今までどんな産業振興策をとってきたのか。

そこで競争しなさいよ」

と批判されると、

苦しいでしょう。

 

やっぱり、

お役人にとって「競争」は縁遠く、

苦手なものなのかもしれませんね。

どこでも安く手に入ってしまうタマネギ

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

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