24.根深いセクハラ文化

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

根深いセクハラ文化

財務事務次官による

テレビ朝日の女性記者へのセクハラ。

ひどい話なのですが、

あっても不思議ではないなと思いました。

変わってきたとはいえ、

官庁はやはり男社会です。

「強い立場=情報を握る人」が男性で、

「弱い立場=情報を求める人」が女性の場合、

セクハラは誘発されやすいでしょう。

官庁でも企業でも

組織の上層部に草食男子はあまり見当たらないし、

若い女性が情報を求めれば

甘くなる人がいたりします。

それに乗っかってマスコミ側も

作戦を立てているわけで、

問題の根は深そうです。

 テレビをよくみると分かると思いますが、

男性が圧倒的多数を占める政治家や高級官僚、

経営者を取り囲んで取材している女性記者は若く、

なんというかシュッとした人が多いですね。

その方が、取材対象者の口が軽くなる可能性が

「なくはない」からだと教えてくれた人がいました。

私はそれを違和感なく受け入れました。

入社してすぐ、

地方の警察を担当していた駆け出しのころから

すでに実感していたことでもあったからです。

捜査幹部は、

なかなかしゃべってくれません。

けんもほろろ、ということもありました。

しかし、私と同年代の女性記者を見かけると、

ニコニコしながら手招きして耳打ちします。

大した話ではないのでしょうが、

あとから来た彼女の方が

素早く情報を収集できるわけです。

「お前が取材先の信頼を勝ち得ていないからだ」

と言われれば、そうなのですが、

何とも腹立たしい。

 

あれから20年以上が過ぎても

大きな違いはありません。

最近でも

同行取材にお気に入りの女性記者をご指名する

男性経営者がいました。

こちらとしては、

不快だけれど関係を良好に保ちたいから、

指名された女性記者を派遣することになります。

 もちろん女性記者もつらい。

昔、私の先輩女性記者は

「タクシーの中で太ももを触られるのは当たり前。

相手は悪いともなんとも思っていない」と、

怒りつつもあきらめ顔で言っていました。

今はそれほどひどいセクハラ(というか犯罪ですよね)

はないでしょうが。

また、苦労して信頼関係を築いたつもりが、

単に女好きの気まぐれだった、

ということもあるでしょう。

(もちろん、これらがすべてではありません。

以前、ノースリーブ姿でくだけた話し方をする女性記者に

「その格好は失礼でしょ。あなたとは話したくない」

と怒鳴りつけた経営者もいました)

まあ、そんなこんなを所与の条件としてぐっとこらえ、

したたかに泳いでいけるのが、

女性でも男性でも

優秀な人材ということなのかもしれません。

 

しかし、セクハラとかパワハラは

人権侵害ですからね。

セクハラだけでなく

森友・加計問題、自衛隊日報問題などなど。

このところ政権はかなりのダメージを受けてきました。

その要因を、

長らく続く「安倍一強」に求める向きもあります。

忖度が先行する一方で、

政府・与党内の権力闘争に伴う牽制、

緊張感が欠けた結果だと。

しかし、根はもっと深いように思えます。

関係者を処分すれば、

政権が変われば解決するほど

問題は単純ではありません。

仕事先との人間関係、競争のルール、

仕事の評価方法、男性観、女性観

といったことも

深く絡み合っているからです。

 

日本の家族の「かたち」は法律が作ってきた、

変化する家族の姿に

法律を合わせたわけではない、

という議論を読んだことがあります。

確かに私たちは税制や補助制度をにらみつつ、

生活を設計し、働き方、夫婦の役割を決めます。

今回の問題を解決するには、

強力なルールを打ち立てて人々の思考回路の

「かたち」を作り直すことが有効かもしれません。

ただし、ここは自由主義社会ですから、

個々の良心に働きかけるのが

正攻法ではあります。

そのバランスをどうすれば良いのか。

大げさなようですが哲学の出番ですね。

現政権の大好きな「道徳」も。

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

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