⑤音楽と文

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

音楽と文

歌うように弾く、

これが今の私にとって最大の目標です。

ギターのお話。

学生時代は古いロックやフォーク、

ソウル系の音楽を演奏していましたが、

雰囲気だけで適当でした。

曲の構成はシンプルで

ジャカジャーンとやってればOK、みたいな。

それはそれで良いのですが、

凝ったつくりのポップスとかになると手が出ませんでした。

それから20数年。

音楽理論を勉強して、

いろんな曲を自由に弾けるようになろう、と

壮大な目標を立ててジャズギターの個人レッスンを

受けるようになったのです。

そして、気づきました。

アドリブ(即興)演奏を組み立てることと文章を書くことは、

とてもよく似ている。

音楽理論は、いわば文法です。

非常に重要ですが、

すべて理解したところで気持ちの良いフレーズが

わき出てくるわけではないようです。

文法をマスターしたたけでは、

伝わりやすい文章を書けないのと同じです。

「仲良くしましょう。私の名前は悟空です」よりも

「オッス!おら悟空」の方が、

多くを語っているような気がしませんか。

音楽の教則本を見ると、

「子どもが言葉を覚えるように練習しましょう」という言葉が出てきます。

ワンワン、ブーブーといった単語から覚え、

組み合わせて文を作り、

さらにそれをつないで発展させるように。

先人が歌うように紡ぎ出したフレーズがお手本で、

繰り返し弾くことと同じように

繰り返し聴くことも大切とされます。

私は活字中毒というほどではありませんが、

いつも、かばんには読みかけの本があります。

少し前は気に入った部分はノートに書き写していました。

「書くことで脳に刻まれる」という先輩記者の言葉を

自分なりに実践していたのです。

(一冊読み切るのに時間がかかりすぎるので、

最近はサボってますが)。

そうすると原稿を書いているときに

「あの言い回し使えるな」と

思いつくこともまれにあります。

面白いのは、

どんな本を読んでいるかによって、

そのときに書く文章の雰囲気が違ってくることです。

椎名誠を読んでいるときは、

とにかくミズスマシ的にスイスイ書けるのだ。

村上春樹のときは、

いささか気取った空気を身にまとうようになるけれども、

政治経済や哲学関連となると

堅苦しい表現が頻出し一文が長くなってしまうのである。

自分を持っていないということかもしれません。

しかし、借り物の表現でも組み合わせで個性を出すのが、

リーズナブルですし、

読んだ人に通じやすいと思っています。

私たちがふだん聴く西洋音楽は、

12音の組み合わせ。

ただ、その曲のキー(ハ長調とかト短調といった調性のことです)や

テンポなどで制約を受けるので

「心地の良いフレーズ」というのは、

ある程度限られてくるようです。

ジャズの流れるようなフレーズもよく聴いてみると、

前半に弾いたフレーズを後半で少し崩して繰り返したり、

有名なリック(短いフレーズ)を

ちりばめたりしているのです。

違う曲なのに同じフレーズが

登場することもあります。

その組み合わせや使い方にプレイヤーの個性が宿るのです。

しかし、音楽と文章には決定的な違いもありました。

動と静、流れるか留まるか、です。

文章を仕上げるうえで、

書いたあとに表現を見直し、

順序を入れ替え、

贅肉をそぎ落とし、といった作業は最も重要です。

私は、急ぎでないものは

一晩くらい寝かしてから吟味します。

そうして必要な修正をしたはずのものでも、

さらに時間を置くと別の欠点が見えてきます。

私たち新聞記者の場合、

記事はアーカイブされるので、

ときに悶絶しますね。

削除してくれ~、と。

一方、音楽は音を出した刹那に空気中に消えてしまい、

あとから取り繕うことはできません。

一発勝負。

悶絶するのは間違った音を出した瞬間です。

やっちまった~、と。

バンドで一緒に演奏するメンバーの視線も冷たい。

しかし、悠長なことは言ってられません。

曲は進行します。

いったんとめて「もう一回やり直し」が

できるのはリハーサルまで。

とはいえ、

極論すれば「恥はかき捨て」ともいえるでしょう。

いずれにせよ、

どちらもとてもやっかいです。

部分的に「我ながらこれは(イケてる!)」と

思うこともないではありませんが、

多くは「次こそ(がんばろう!)」と思うことばかり。

道は遠いです。

書くことも、演奏することも。

津市の商店街で開かれた「津ぅのど真ん中ジャズフェスティバル 2017」に中学生のジャズバンドが登場。吹奏楽から転向して2年目という。道は遠いぞ、がんばれ

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

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