②盛り上がってるか~い -選挙のお話

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

盛り上がってるか~い

 「今ね、プロよりも素人を出演させる方が儲かるんですよ。確実に人が集まる」

 あるジャズバーのマスターが言いました。

演奏がうまいプロもいいけど、

よく知っている人ががんばっている姿を見るのも楽しいですよね。

終わってから一緒に打ち上げしたりして。

これって政治にも言えることだと思います。

今回の総選挙、いつものごとく投票率は低調でした。

投票に行かない最大の理由は「いい人がいないから」でしょう。

急に自分の名前を大声で連呼されても、あんた誰?って。

選挙になると、新聞やテレビが「投票に行こう」「権利を行使すべきだ」と

決まり文句を繰り返しますが、

それも白々しく響きます。

挙げ句に「白票も一つの意思表示。棄権とは違う」だなんて、

苦しまぎれですよね。

「構図が決まったときには、もう決まってんだよ」

以前、私が地方支局で選挙取材を仕切っていたとき、

政治部出身の上司が教えてくれました。

政党の支部、医師会や農協といった団体、

労働組合などが話し合って「だれを担ぐか」を決めた段階で、

当選者はほぼ決まるというのです。

選挙取材というのは、そのゴニョゴニョとした話し合いを覗き、

各組織の力量、つまり票数を見極めることです。

無党派層が動かず投票率が低いほど、

予想しやすくなります。

政治に関わる人たちは選挙の「せ」の字もないときから、

いろんな会合や催しに参加して組織力を維持し、

それを政治家にチラ見せしながら、

自分たちの求める減税や規制緩和、

補助金増額を求めます。

利益誘導政治ではあるけれども、

権利を行使し「政治に参加している」のです。

だから、選挙戦が始まってから誰に投票しようかと考えているような人は、

圧倒的に出遅れているどころか、

まったくもって蚊帳の外と言えるでしょう。

では、どうすれば良いのか。

自分が立候補したり、候補者を担ぎ出す、

組織を作ることができなくても、

政治の匂いがする場所に顔を出すということが、

第一歩になるのではないでしょうか。

政治家は、私利私欲に走っている人ばかりではありません。

実際に会って話してみると、

とにかくよく勉強しているのが分かるし、

熱い思いを持っていたりします。

チャンスがあれば会ってみて、

つまらない人だと思えば離れればいい。

少しでも見込みがあると思えば、

「こんな政策を」とリクエストすれば良いと思います。

彼らもむげにはしないはず。

風を読む必要があるし、

悪い評判が広まるリスクは避けなければなりません。

こうしたことは微々たる効果しか生まないかもしれません。

選挙は時間がかかるし、

まじめでなければ手に負えません。

だから、いわゆる「市民グループ」は、

大した人たちなのです。

政治家とはなかなか会えなくても、

まずは市民グループの主催するイベントなんかに

行ってみるのもいいかもしれません。

選挙で「盛り上がってるか~い?」と呼びかける側に回るのは大変ですが、

自分にとって「知り合いのライブ」ぐらいのイベントに

近づけることは可能だと思います。

最近、赴任してきた三重県津市では近々、街中のライブハウスやアーケードをステージにしたジャズ・フェスティバルが開かれる。有名ミュージシャンも来演するが、主役は地元のアマチュアだ

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

 

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