㊺溜飲を下げてくれ

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

溜飲を下げてくれ

「胸がすいて気持がよくなる。

不平・不満が解消して気分が落ち着く」。

手元にある広辞苑で

「溜飲が下がる」は

こう説明されています。

近頃、溜飲を下げたい人のための言葉が

あちらこちらで氾濫しています。

国際報道でも芸能ニュースでも。

何も生まないのだけれど

一時的にスカッとする

麻薬のような嫌な言葉たちです。

こんなのに頼らずに

気持を晴れ晴れさせてくれる何かを

みなさんは持っていますか?

溜飲下げ(こんな言葉はありませんが)で、

最もツボを心得ている一人が

米国のトランプ大統領でしょう。

知識層からはバカにされていましたが、

溜飲を下げたい人たちは非常に多く、

その人たちに

突き刺さる言葉を発信し続けて

地位を保っています。

何だか一つの政治スタイルとして

定着しそうな勢いです。

とはいえ、

一方で決して少なくはない

反対派のマグマはたまっていて、

彼らも溜飲下げスターを求めているようです。

次の大統領選では、

トランプ氏の向こうを張る

トンデモ候補が出てきそうですね。

ただ、

溜飲のことばかりに気を取られると、

足元が揺らいできます。

韓国の文在寅大統領がそうですね。

日韓関係は、

文化やスポーツは別にして政治的な側面で、

どう考えても

出口がないところまで悪化しています。

政治家は

人気商売的なところもありますから、

仕方がないにしても

行き過ぎた感は否めません。

日韓関係をめぐる問題については、

日本国内で

イライラする人は

多いのではないでしょうか。

これまで随分、

日本側が我慢してきたのに、と。

だからでしょうか。

溜飲を下げてくれるような

ニュース解説は人気ですね。

面白いのは、

民放各社の姿勢です。

夜のニュースは、

日韓関係について

割に冷静に報じていて

リベラル系のコメンテーターが

日本にもやや厳しい意見も言うのですが、

週末の昼間の討論(?)番組では、

まさに視聴者の

「溜飲が下がる」ことに

主眼を置いたかのような

構成になっています。

コメンテーターも保守系が多い。

放送局もこちらで

鬱憤をはらしているかのような

印象さえ受けます。

文氏につきあって

言説をエスカレートさせると

同じ過ちを犯しかねない。

とはいえ、

大人の対応では

付け入る隙を与えてしまう。

国を罰し

権限を奪うことができる

世界政府というものが存在しない国際社会は、

実質的に無法地帯で

言った者勝ちですから、

非常にやっかいな状態です。

で、

新聞はどうなのかというと、

やはり「溜飲下げ」的な記事があります。

特にはっきり分かるのが政治です。

朝日新聞と産経新聞がその両極端。

朝日はとにかく

安倍政権に厳しく

「そこまでつつく?

言いがかりじゃないか」

みたいな記事があります。

一方で産経は野党に辛辣で

「そこまで悪し様に言うか」と

読んでいて

ちょっとびっくりすることがあります。

ある一つの主張をしようとすれば、

シンプルに表現することが重要です。

結果的に乱暴になりがちで、

それが「溜飲下げ」になっていたりします。

しかし、

読み続けると記事によっては

「結果的にそうなったのではなく、

最初から狙っている」

疑いが生じてきます。

有り体に言えば、

読者を引きつけてナンボの業界でも

ありますのでね。

しかしそれでは

「いいね」狙いのSNSと

同レベルになってしまいます。

エスカレートすると

どこかでしっぺ返しを受けることは、

感覚的には分かっているのですが、

「溜飲」から発せられる引力は

実に強いのです。

とにかく、

いろんなことの板挟みになって

スッキリしたいと

思っている人が多いので。

そう考えると

「少年ジャンプ」などは

実に健全なメディアですね。

常備薬の胃薬。これを持っていると思うだけで胃の痛みが遠のく気がします

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

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