㉗民泊はじめました

石巻の街なかに近い、

坂の上の一軒家に暮らして早1年半。

砂壁に漆喰を塗るなどして、

時間をかけて自分好みの家に

仕上げてきました。

愛猫のふーちゃんとクロちゃんは、

家の中で最も素敵な場所と思われる

広縁を陣取り、

昼寝をしたり、庭を眺めて

毎日ポカポカと過ごしています。

我が人生に、

これほど穏やかな時が訪れるとは……

ご隠居のように目を細める日々。

しかし同時に、

慣れてくるとハッキリと

浮上してくる思いがありました。

この家、やっぱり広い。

広すぎる。

1人と2匹ではどうやっても隅々まで

使いこなすことができないのです。

それどころか、

ご飯を食べるのもテレビを見るのも、

パソコンに向かうのも、

私は気がつけばいつも

家の中で最も狭い

4畳半のダイニングルームで

すませてしまっているではありませんか!

生来の貧乏性と

長い東京砂漠での暮らしが、

私のライフスタイルを

こんなにもミニマムにしてしまったのです。

時々、火がついたように

大運動会を繰り広げる

愛猫たちの方が、

この立派な家のスペースを

よほど有効に使っています。

イカン、

このままではイカン。

家具や電化製品、食器や調度品まで、

不思議なご縁で先住のご家族から

ほとんど丸ごと譲り受けた

立派な一軒家。

使っていない部屋を眺めては、

申し訳なさがこみ上げてきました。

そんな折。

私はひょんなことから

知人に誘われ、

行ったことがなかった石巻の離島、

網地島(あじしま)へ

行くことになりました。

通称『東洋のハワイ』。

冬だからでしょうか。

私はまったくその感じを

受けとることができなかったのですが、

きっと夏には、

白い砂浜がワイキキビーチと

みまがう美しさなのでありましょう。

そして、実は今、

この網地島よりも

注目を浴びているのが、

同じフェリーで行くことができる

田代島です。

こちらは通称『猫島』。

住民よりも猫のほうが多いと言われ、

今や世界中から人が訪れる、

猫好きの聖地となりつつあるのです。

この日も、

冷たい風が吹きすさぶ中、

アジア系からヨーロピアンな方々まで

数人の外国人が

フェリーのチケット売り場に

集まってきていました。

だいたいが

ひとりかふたりの少人数グループで、

大きな声で騒いでいる人などいません。

外国人どうし、

他の客と目が合うと

シャイなまなざしで親しみを表現。

言葉を交わさずとも、

共にこれから、

憧れの猫島へ向かうという

その連帯感がハンパありません。

 

素朴なチケット売り場は

今どき日本語オンリーで、

皆さん、不安げに周りの様子を見ながら

なんとかチケットを購入しています。

不親切なようですが、

入り口の外で

猫の親子を飼っておくあたり、

「外国語はできへんけど、

これで勘弁してや」という、

運航会社の精一杯の

エクスキューズを感じます。

案の定、猫好き外国人たちは大喜び。

親子猫の周りに集まり、

順番に頭をなでたりして

静かなときめきの時間を過ごしています。

これぞ、

世界平和絵図。

爆発的愛らしさを備えた子猫が、

みんなの手をとり、

ひとつに結ぶユートピア。

そう、まさしく今、

世界はひとつなのであります。

一瞬で世界をつなげた世界平和の天使

私はそのうちのひとり、

猫の模様入りシャツを着た

身体の小さな60代ぐらいの女性に

声をかけてみました。

すると代わりに、

隣りにいた若い男性が

自分たちはタイから来たと

英語で応えてくれました。

母と息子のふたり旅。

お母さんの方は英語が話せないようですが、

始終、ニコニコして本当に幸せそう。

息子さんに聞かれるまま

田代島に関する

いくつかの情報を教えてあげると、

お母さんがバッグの中から

異国のお菓子を取り出して、

私にそっと握らせてくれました。

微笑みの国、

タイ。

 

その時私は思いました。

この人たちをもっともてなしたい!

人口減が止まらない石巻。

立派な箱モノは次々できても、

利用する人がいないという

廃れ行く地方都市の

見本のようなわが街に、

はるばる海外から来てくれる人がいる。

もうそれだけで、

市民としては

飛びついてハグしたいような

気持ちになってしまいます。

 

そうだ、民泊をはじめよう!

以前から、

先に民泊を始めていた友人に、

私の家でもやってはどうかと

勧められていました。

が、知らない人を泊めるのはちょっと、

愛猫たちに何かあっても嫌だし、と

二の足を踏んでいたのです。

しかしながら、

旅行会社のツアーもなく、

完全な個人旅行で

こんな果てまでやってくる

静かなる情熱をたたえた

お行儀のいい猫好きさんなら、

いいかもしれない。

私はついに腰を上げ、

民泊の営業許可をとることにしました。

 

消防署と保健所に

必要な書類を提出し、

受理されるのに数週間。

許可が下りた後はさっそく、

『Airbnb(エアビー)』という

世界的なゲストハウス予約サイトに

自分の家の情報を掲載、

ドキドキしながら待っていると、

ほどなく来ました

初のご予約!

1カ月先のことですが、

台湾から若い女性がひとり、

田代島へ行きたいから

泊めて欲しいとの

メッセージ付きであります。

さらに翌日、

今度は大陸の方の中国からも、

また女性1人のご予約が。

普通なら、

絶対に出会うはずがない人たちを

いきなり家に泊めるという

不思議体験。

私にとってはなかなかの

チャレンジでありますが、

勇気を出して

また新しいことを始めるのは、

清々しさも伴います。

そうこうしているうちに、

なぜか猫島に向かう

例のフェリー乗り場も移設。

なんと徒歩10分と、

我が家にグッと近づいてきたではありませんか。

(あの親子猫はもういませんが……)

さて、どうなることやら。

これまでとはまったく違う

異色の出会い、

本当に楽しみです。

『民泊よあけの猫舎』の詳細はこちら。もちろん、日本人のお客様も大歓迎です。

筆者:塩坂佳子(しおさか・よしこ)
大阪府高槻市出身。関西学院大学文学部卒業後はアルバイトなどを経験し、25歳でフリーランスのライター兼編集者として開業。2000年に大阪を出て、友人が住む小笠原諸島父島へ。釣り船の手伝いなどをして島暮らしを満喫、その様子を雑誌に連載するなどして2年間の長期滞在を楽しんだ。その後、板橋区へ移住し、東京でのライター・編集業を本格始動。主な仕事は結婚情報誌「ゼクシィ」や「婦人公論」などで執筆。出版社との契約で中国上海市に1年間駐在、現地編集部の立ち上げと雑誌創刊などにも関わった。東日本大震災後は、震災ボランティアとして宮城県を中心に訪問。2013年には、上海在住のイラストレーター・ワタナベマキコと共に、東北の名産品をユニークなキャラクターにした東北応援プロジェクト「東北☆家族」を立ち上げ。東京に住まいながら活動を続け、2015年秋に宮城県石巻市へ移住。2年間は主に石巻市産業復興支援員として、復興や地方再生を促す街の情報発信を担当した。2017年9月には『合同会社よあけのてがみ』を設立。現在は、自宅兼オフィスとして購入した築50年の庭付き中古一軒家をDIYでリノベーションしながら、2匹の愛猫・ふーちゃんとクロちゃんと共に暮らしている。

 

2 件のコメント

  • 私も作並で民泊をしてみようかな
    と思っています
    でもやれるかどうか
    不安が一杯です
    今度お話し伺っても
    いいでしょうか

    61歳女性仙台青葉区錦ヶ丘在住

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