㊴時代は変わる

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

時代は変わる

 もっと広い世界へ、

色んなものを見てみたい、

という思いを若者は持つものだと

考えていましたが、

最近はそうでもないようです。

地元、田舎、地方を見つめ、

日本で作られたものを

評価する人が

増えているらしい。

内向きになったのか、

それともクレバーになったのか。

 三重大と東大が連携協定を結びました。

過疎化など地域の課題解決をテーマに、

研究や学生の教育で

協力し合うという内容です。

その記者会見で

東大の松原宏教授から

気になる言葉が。

「最近の学生の関心は

地域に向かっています。

中山間地や離島に関わりたい

という学生が多い」

メインテーマから外れてしまいますが、

思わず質問の手を

挙げてしまいました。

「その背景には何があるのでしょうか」。

有名大学であれば、

国際舞台で活躍したい、

最先端の分野で自分を試したい、

といった夢を抱く学生が多いという

私の勝手なイメージと

合わなかったからです。

「東京には地方出身の学生が多いのですが、

地元に帰っても

職がなかったりします。

何とかしなければ、

と思っているのではないか。

それと、東京出身の学生にとって、

地方には自分の知っている世界と

まったく違う魅力があるようです」

と松原教授。

もっとも

「グローバルに活躍したいという学生もいる」

とのことでした。

おそらくは、

大学が社会の〝役に立つ〟学問を掘り下げ、

人材を育成することを

より強く求められるようになってきたことも

関係しているのではないでしょうか。

ふらふら遊んでいるのなら、

できそうもないことを夢想しているのなら、

地に足を着けて身の回りを見るべし、

という雰囲気に飲まれる学生たち。

そんな邪推もあって、

私は地方志向の学生が

増えているという現象に、

ちょっと引っかかりを感じました。

 

この記者会見の数日前、

私の出身大学の

軽音楽部同窓会が主催する

演奏会をのぞきに行ったときも、

似たような感覚にとらわれました。

現役の学生や卒業間もない

若いOB・OGとは

親子ほど年が離れていますが、

同じ「軽音仲間」なので

音楽に対するスタンスには

それほど差がないと思っていました。

ところが、違うのですね。

私が学生の頃は、

好きなミュージシャンの

音楽的なルーツとなった曲を発掘して

聴き込むことが

とても重視されていました。

いわゆる洋楽です。

演奏するのなら、

その音楽の本来の姿は

どのようなものか

探求するべきではないか、と

相当に肩肘張ったところがありました。

好きなミュージシャンのまねをしても、

それだけでは

劣化コピーに終わってしまう、

という考え方です。

一時期は戦前の

ブルースのレコードを集めたものです。

苦悩しましたね。

これが自分にできるだろうか、

できそうもないな、と。

一方、我が後輩たちは

日本のミュージシャンの曲(邦楽ですね)を

楽しんでいるのです。

もう飛び跳ねんばかりに。

私は学生時代から、

ちょっと邦楽を

バカにしているところがありまして、

「演歌っぽい」「録音がいまいち」

「アレンジがダサイ」など

エラそーにご託を並べていました。

邦楽(ポップスやロック)は

輸入した洋楽を

お手本にしているのであるからして、

学ぶべきことは邦楽ではなく

洋楽に詰まっているのだ、

邦楽をなぞったところでそれは

「劣化コピー」にしかならないのである-

という考えに

凝り固まっていました。

しかし、

邦楽のレベル(これもエラそーな言い方ですが)は、

飛躍的に高くなっているのですね。

曲の構成もリズムも録音も。

若者を飛び跳ねさせる

日本の売れっ子ミュージシャンの

インタビュー記事などを読むと、

多くが実は

かなりの洋楽マニアであることが

分かります。

どっぷり浸かって

体に染みこませた時期を持っている。

楽曲をよく聴くと

それらしい匂いが漂ってきます。

洋楽、邦楽と色分けしたり、

洋楽をあがめ奉ったりするのは、

もう古いのだ、きっと。

ボブ・ディランの歌ではないけれど

「時代は変わる」です。

輸入したポップスやロックが

借り物の段階を経て、

日本で自律的に進化し

新しいスタイルを築いたように、

日本社会も随分豊かに

便利になって

成熟したのだと思います。

そして、

先人たちが経験しなかったことが

起こりつつあります。

その現場は東京だけでなく、

地方、田舎にもあります。

そこに立ってみると、

まだ見ぬ世界に触れられるのであれば、

意識の高い若者を引きつけるのは

当然かもしれません。

2つの出来事で感じたひっかかりを、

こうして頭をひねりながら

接続してみると、

なんとなく

着地できたような気分です。

戦前から1960年代にかけて録音されたレコード。アイドルのポップスも根っこはここにあります

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

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