㉝贅沢な夏休み

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

贅沢な夏休み

大学時代、前期末の試験が終わり

「打ち上げにキャンプでもしよう」と

軽音楽部仲間の実家がある

福井県福井市に出かけました。

そして、小さな島が目の前に浮かぶ海岸に

ちょっとしたスペースを見つけ、

荷物を降ろしました。

以来31年。

海の日になると、

メンバーそれぞれの都合によりますが、

何人かがこの場所に集まって

3日間を過ごします。

互いの成長ぶりと進歩のなさを確認できる、

大人の夏休みイベントになりました。

そこで何か刺激を受けることはなく、

有用な情報が得られるわけでもありません。

時間は貴重ですが、だからこそ、

だらだらと無為に過ごすことは贅沢であり、

たまの贅沢は許されて

しかるべきなのであります。

毎日働いているんだから。

 福井市の西部、

海岸に沿って走る道から脇に入って、

細く曲がりくねった急な坂を下りきると、

磯とコンクリートの堤防に囲まれた

冴えない場所に行き当たります。

目の覚めるような白い砂浜とか

情緒のある小さな島々、断崖絶壁、といった

観光地的な要素は皆無。

なぜ、ここに決めたのか

今となってはよく分かりませんが、

これはこれでOK。

猛烈に暑い今年の夏。

海に入り、

仰向けにぷかぷか浮かんで体を冷やします。

見えるのは空しかありません。

水に浸かった耳に聞こえてくるのは

くぐもった波の音と、自分の息です。

 

「燃料なら流木がある」

「鍋?漂着ゴミに混じってるはず」

そう言って始まった越前海岸での夏休みでした。

昼間泳いで、夜の暗闇で

苦労しながらバーベキューをして、

虫に刺されるがまま寝る。

夜も明けきらぬうちにカレーを煮込み始め、

日が昇ると、

バカみたいに買い込んだビールを飲む。

また泳いで、そして、

ひどく日焼けしてしまう。

イベント名は「越前」と

何のひねりもありませんが、

「来年は、これをこうして…」と

少しずつ改良を重ねてきました。

やがて、福井在住のメンバーが

隣のあわら市にセカンドハウスを建て、

テント生活は卒業。

子連れの参加も増えました。

でも小島の見えるあの海岸には必ず行きます。

 

大学を出た後、

私は連休を取りにくい仕事に就いたこともあって、

しばらく欠場が続きましたが、

最近は「越前」に合わせて休みを調整し、

参加し続けています。

復帰した当初、

カネにものを言わせて

食材やアウトドア用品で

いろいろと贅沢(学生時代比)を

するようになってしまった「越前」に

いささか違和感を覚えましたが、

どうにも要領が悪いところは相変わらずで、

やっぱり馴染めました。

コストに見合うだけの進化は

できなかったようです。

 

変わったといえば、

やはりそれぞれの社会での立場です。

若い頃から続く音楽談義もしますが、

夜に飲みながらとなると、

仕事の話が中心です。

ある程度の責任を負う年代になっていて、

我ながら驚くべきことですが

「近頃の若いもんは」的な愚痴も出ます。

あとは、健康あるある、

子供の教育や家族のあれこれ、

そして人生、と

学生時代の自分が聞いたらせせら笑うか、

うんざりしてしまうような話題が続きます。

ただ、利害関係とか

派閥があるわけではないので、

相手を説き伏せようとか、

譲歩して最低限のラインを守ろうとか、

そんな風にはならないし、

自分の考え方が否定されても

「そんなもんかぁ」と腹は立たない。

受け入れがたい考え方を

聞かされることもありますが、

「この場は所詮、越前」というアタマがあるので

「アホやなあ」と笑って聞き続けます。

そうしているうちに賛成はできなくても

理解はできるようになってくるから不思議です。

ふだん、こうした話の展開に

出くわすことはなかなかありません。

ただ翌朝になると、

そんな話もすっかり

頭の中で細切れになってしまい、

残骸を拾い上げては

「これ何だっけ」となるわけですが。

 

そして3日目、

費用を精算し片付けて「また来年」と別れます。

学生時代は行きも帰りも

みんな一緒でしたが、

今では大阪や東京、

名古屋なんかで待っている

それぞれの日常に戻っていきます。

まだ7月半ばなのに、

夏は終わったも同然の気分。

残されたクソ暑い日々を、

だらだら過ごすことになります。

みんなで日程を調整して

夏のピークである8月あたりに

ずらしても良いのですが、

しない。

そこが「越前」なんかに興じる

私たちの甘いところです。

せっかく夏の海に来たのに、熱のこもったコンクリートの上で眠りこける「越前」参加者

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

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