㉚ふるさと競争

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

ふるさと競争

うまいものは全国各地にあり、

それをほかの土地の人に売り込むことは、

地域を活気づけるうえでも重要なことです。

新鮮な魚、古くから伝わる加工食品、

糖度の高い果物…。

冷凍・冷蔵技術の発達と道路網の整備で、

販売ルートは広がっています。

そうして多くの人が

今まで出会えなかった味覚に触れ、

舌は奢ってきました。

知る人ぞ知る、とされるものは

随分減ったのではないでしょうか。

さて、本当にうまいものがある土地として

生き残るのはどこなのか。

良いものなら売れる、と

あぐらをかいていると

競争から取り残されるかもしれません。

 「ちょっと飽きられてきたのでしょうね。

なんとかしないと…」。

尾鷲観光物産協会(三重県尾鷲市)で

特産品の通販事業を担当する方は

思案顔でした。

旬のものをセットにして

年4回発送する

「尾鷲まるごとヤーヤ便」(年2万7500円)は

今年10周年。

こうした取り組みでは

草分けといえるでしょう。

当初600件弱だった申し込みは、

2015年度に2500件を超えました。

しかし、その後、減少し

昨年度は1176件。

「特産品を売り出す地方が増えたし、

ふるさと納税の返礼品競争もあって

尾鷲の取り組みは珍しくなったのかも」

というのが同協会の見立てです。

太平洋に面した尾鷲市は

海の幸が豊かで、

温暖な気候のため

柑橘類の質も高いそうです。

しかし、これは西日本の太平洋沿岸では

共通することですね。

東日本にいくと別の魅力を備えています。

日本海側でも山間部でも

人が暮らし続けている場所には、

おいしく食べる知恵が蓄積されています。

東日本大震災後は、

東北の地のものを買って

食べて応援しよう、

という動きが広がりました。

そうすると「何だ、うまいものって、

いっぱいあるじゃないか」となり、

ほかの地方でも「うちにだって」と。

これらは、テレビ番組、

ネット口コミと通販の隆盛で広がり、

うまいものはよりどりみどり。

今回のお取り寄せは東北から、

次は土佐、越前、なんて

贅沢もできるようになりました。

 

百貨店業界でも、

やはり各地の特産への期待は

大きいようです。

例えば今の時期、お中元商戦。

売り上げではビールが

ダントツで多いのだけど、

伸び悩んでいるそうです。

企業が贈答品にかけるお金を

減らしていることが影響しています。

一方で、少しずつ伸びているのが

個人客の選ぶ各地の特産品です。

三重県津市にある百貨店「松菱」では、

三重産がやはり人気で、

次いで全国の名産を

バイキングのように選んで

詰め合わせにする商品が好評だそうです。

その枠内で全国の産地が

しのぎを削っているわけですね。

そうなると売り込む側は大変です。

尾鷲では今回、申し込んだ人の中から

抽選で1人にマグロ1本をプレゼントし、

併せてすし職人を派遣する

といった新企画も。

10年かけて地域の生産者を

盛り上げてきたのだから、

失速したくない、という意気込みというか

危機感も感じられます。

生産者には若い人もいるし、

通販のために増産態勢を

整える事業者もあるほどで、

年4回の生産と発送は

地域の一大事業です。

 

競争と言えば、

ふるさと納税の返礼品も熱い。

三重県南部の自治体は

伊勢湾産の真珠をラインアップして、

寄付をかき集めました。

しかし、地方自治を所管する総務省から

「やり過ぎ」と注意され

真珠を返礼品から除外させられました。

今後、ふるさと納税の収入は減りそうで、

財政に影響するのは確実。

そうなると巻き返しには、

うまいものが主軸になります、やっぱり。

食の競争は激しくなりそう。

当事者は大変ですが、

消費者としては、

なんとぜいたくな国に

生まれたものだと思いますね。

「尾鷲まるごとヤーヤ便」のパンフレット(上)と松菱のお中元ギフトカタログ

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

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