㉒謎の生き物がいる!

東日本大震災で被災し、避難所で3ヶ月、仮設住宅で3年間暮らしたお寺の和尚が、奇跡の一本松や巨大なベルトコンベアで全国に知られることとなった故郷、岩手県陸前高田市のことを書いていきます。フレンチブルドッグのハナさんは震災でかつての愛犬を亡くした和尚のために、妻と娘たちが連れてきてくれた新しい相棒です

謎の生き物がいる!

浄土寺とは別に、

震災後から住職の兼務をさせていただいている

正覚寺。

昨年から、

天井裏で音がすると妻に言われていた。

古い建物なので

なにかが居てもおかしくないだろうなどと

呑気なことを言っていた。

100年は優に超える建物で、

震災後に柱だけを残し、大改造した。

30年も人が住んでいなかったので、

他の生き物も住み心地が悪く、

住まなかったのだろう。

リフォームしたときも、

動物などが住んでいる形跡が

あるとは聞かなかったので、

私たちが住むようになってから、

入り込んだのだろうと思う。

謎の生き物の正体は「ハクビシン」、

漢字表記では「白鼻芯」。

そうだろうとは思っていたが、

業者による現地調査で確定した。

沖縄を除き全国にいる。

中国や東南アジアからの移入種と言われるが、

昔から日本にいたという説もある。

頭から鼻にかけて白い縦線があり

胴長短足で尻尾が長い。

五本指でジャコウネコ科であるが

尻尾が太く長いので

バランスをとるのが上手く、

猿のような運動能力があり

電線や電話線をつたって

屋根に登ることもあるそうである。

 

ある日、廊下の天井から

水のようなものが落ちてきた。

雨は降っていないし、

雨漏りではないだろう。

何だろうと思いながらも拭き取った。

動物のオシッコなら

それなりの匂いもあるはずだが、

特に気になる匂いもなく不思議に思っていた。

その後も量は違えど、

水のようなものが落ちてきたり、

シミがあって気になって、

やっと業者に連絡して調査となった。

震災前から市内のお寺では

ハクビシンの被害が話題に出ていた。

気がつかなかったのか、

本当にいなかったのか、

浄土寺では兆候はなかった。

 

そして震災。

ハクビシンのことは頭の中から

全くなくなっていた。

そんな中での今回の出来事。

調査してもらい、

ハクビシンが住んでいる様子が確認され、

写真を見せられ説明を受けた。

出入りしているのだろう隙間や

天井裏にはフンがあり、

オシッコのシミやグラスウールの断熱材には

かぶった埃の上に足跡や、

寝た様子の窪みなど

間違いない、と嫌なお墨付きを頂いた。

費用も相当であるが、

10年の施工箇所の保障がつき、

駆除の方法にも納得がいったので

説明後に契約し、早速駆除の開始。

調査日現在、生き物は不在なので

出入り箇所をステンレスの網で塞ぎ、

グラスウールの断熱材の消毒までが

1日目の作業。

2日目は、前日に続き侵入経路の穴や

建物下の空間をステンレスの網で遮断工事。

グラスウールの一部撤去。

このグラスウールがその名の通り、

細いガラス繊維のようなもので

とても扱いが大変らしく、

業者の人が痒い痒いと体を拭いていた。

穴という穴を徹底的にふさぐ!

その晩の事、建物の中か外かはわからないけど、

カタカタ歩く音や、

いびきのような唸り声が聞こえたりと、

今までにない経験。

業者に話すと、

中か外か調べてみますとのこと。

結果、屋外に追い出されたハクビシンが

塞がれてしまった複数の出入り口を探し、

屋根を歩き回り、

入れないので唸っていた模様。

屋内には新しい糞がなく、

断熱材をとったので

天井を歩いていれば

もっと大きな音がするといわれた。

 

3日目の作業は4人体制でどんどん進み、

外からネズミが入れそうな穴も

モルタルで塞いだり、

換気口に網を張る作業や

残りの天井裏のグラスウールの断熱材を

全て取り除き袋詰めして外に出した。

隣りの大船渡でも駆除依頼があるらしく、

スタッフの1人はそちらに。

最終日は2人で床下や屋根の下など

ステンレス網で塞ぐ作業が夕方6時半までかかり、

都合4日でハクビシンの追い出し駆除完了。

作業箇所以外から侵入する可能性はあるものの、

ワナをかけて捕獲することもなく、

追い出すことができてよかった。

もしワナにかかれば

安楽死させるとのこと。

大船渡ではワナをかけて捕獲したので

これから業者の人が引き取りにいくと話していた。

ワナにかかると暴れてうるさいが、

袋に入れると大人しくなるそうで、

そのまま車に積んでくるので

「明日ハクビシン見せましょうか?」

と言われたがお断りした。

二度と来て欲しくないお客様である。

ちなみに、大船渡では

もう1匹いるかもしれない、ということで

暗視カメラを設置して、

確認するそうだ。

菅原瑞祥(すがわら・みずあき)1958年生まれ。岩手県陸前高田市にある浄土寺の住職。以前は併設の幼稚園で園長も務めていたが、東日本大震災で寺は大規模半壊、園舎は跡形もなく流され現在休園中。奇跡的に家族の中には犠牲者が無かったが、愛犬一匹を失い、自身も避難所で3カ月、仮設住宅で3年間の生活を余儀なくされた。最大規模の被災地にある寺の住職として、犠牲者の魂や遺族たちの心を支え続けている。現在は妻と震災後にやってきたフレンチブルドッグのハナちゃんと生活。3人の子どもたちは成人し、それぞれ東京などで暮らしている。

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