㉘お天道様とSNS

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

お天道様とSNS

 「日光は最良の防腐剤である」とは、

中国の李克強首相の言葉。

官僚の腐敗撲滅には、

すべてを白日の下にさらすことが

最も効果的だということです。

日本でも政財官から学生スポーツまで、

いろんな場所から腐臭が漂ってきますが、

割に早く真相に迫り、

不正をただす手がかりとなる事実が

明るみに出るようになりました。

保管されている電子データの拡散、

SNSによる情報共有とネット上の「世論」が

大きな役割を果たしています。

IT革命という言葉が登場した頃、

単に技術革新だと思っていましたが、

実は社会のありようも

大きく変えていたのですね。

 加計学園の獣医学部新設に

首相官邸の意向が介在していたのではないか、

という疑惑。

官邸サイドが否定しても否定しても、

それを疑わせるような記録が

次々と明るみに出てきます。

最近の行政文書は電子データになり、

コピーを関係者で回覧したり、

送信したりするので、

「変に隠してあとで見つかったときに、

どんな目に遭うか分かったものではない」

という心理も働いているのでしょう。

森友学園問題で

財務省は炎上しましたからね。

 何らかの疑惑で新事実が明らかになるたびに、

あらゆるメディアがつつき回して

矛盾点をあぶり出す。

それにSNSでも話題になります。

SNSは既存メディアのような

複数のチェックを経ないだけに、

信頼性では劣るとされますが、

時に新聞やテレビより鋭い視点を

提示することがあります。

書き手はジャーナリストではなくとも

社会人であれば、

だれでも何らかの

プロフェッショナルなのですから。

 

こうした意見、見方、指摘が

たくさん積み上がってくると、

大きな方向性が見えてきます。

黒澤明監督の名作「羅生門」は、

同じ出来事でも人によって見え方が異なり、

偏見や嘘をまぶして周囲に伝えるため、

部外者には何が真実かは分からないものだ、

ということを見事に描き出しました

(原案は芥川龍之介「藪の中」)。

ただ、このストーリーで示されたのは

3人の視点に過ぎません。

SNSの時代、提示される視点は無数にあり、

藪の中はかなり見通しやすくなっています。

 

大学アメリカンフットボールの反則行為問題でも、

加害者側の日本大学の前監督は

記者団の前で「SNSへの対応が…」などと

漏らしていました。

飛行機に乗る前は

被害者側の関西学院大学に言及する際、

誤って「かんさいがくいん」

と発音していましたが、

SNSなどで指摘されたのを見たのでしょうね。

飛行機から降りてくると、

かんせいがくいん」

正しく発音していました。

(記者団に執拗に質問を浴びせられる

前監督の映像を見て、

黒澤作品「蜘蛛の巣城」で矢ぶすまになる

三船敏郎を連想してしまいました)

 

一方、

問題の悪質な違反行為に手を染めてしまった

日大の選手が記者会見し、

経緯のすべてを白日の下にさらしました。

彼個人の視点ではありますが、

これまでにメディア、

ネットで議論されてきた内容の

空白を埋めるものであり、

何となく共有されてきたストーリーと

フィットするものでした。

藪の中で問題を処理しようとした

前監督は劣勢でした。

どうして嘘をついたり、

ごまかしたりするのか。

政府、製品の品質データや会計を偽る企業、

暴行事件をひた隠しにしようとする日本相撲協会、

そして日本大学。

信頼され、歴史があり、

ブランド力の高い組織ばかりです。

それぞれの上層部には、

歴史書などに親しみ、

古今東西の名君の言葉を

座右の銘とする人は少なくない。

しかし、現代の大きな組織は利権、

組織内の人事抗争、

ランドイメージなんかが絡み合って、

何もかもすっきり一筋縄で、

とはいかないのも現実です。

「嘘をついてでもこの局面をしのぎきれば、

あとはリカバーできる。

そして正しい道に戻れば良いのだ」

という考え方は、

合理的に見えなくもないのでしょう。

実際は無理筋なのですが。

 

勧善懲悪の時代劇では

「お天道様はお見通しだぜ」

という決め台詞がありました。

今ならさしずめ

「ネットに出ているぜ」

「YouTubeにアップされているぜ」

といったところでしょうか。

墓場まで持って行ける嘘など、

もうないのかもしれません。

木漏れ日が気持ちよい季節。藪の中にも日が差します

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA