22.気持ちはついてくるか

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

気持ちはついてくるか

 三重県の外郭団体が、

高校生を対象にアンケートを実施し

「生徒の1割は、性的少数者(マイノリティー)である」

とするリポートをまとめました。

性的マイノリティーとは

身体と心の性が一致しない人。

10人に1人ということですが、

私は今まで個人的に接してきた人たちの中に

そうした人がいると

はっきりと認識したことはありません。

性的マイノリティーとされる人は、

自分の気持ちを抑え込んで

表には出していなかったということでしょう。

「だれもが自分の気持ちを表現できるようにすべきだ」

という流れができつつあるいま、

マジョリティー側の気持ちのありようが

問われています。
(マイノリティー、マジョリティーと

区別するのは嫌な感じもしますが、

考えを整理するためとりあえず)


調査は三重県男女共同参画センターが、

県内の高校2年生を対象に実施し、

約1万人の回答を分析しました。

好きになる人の性が「自分と同じ」「両方」や

「好きになる性がない」

と答えた生徒を合計すると

10.0%になるということです。

調査からは、いじめ被害や自傷行為、

「すべてが嫌になるほど悩んだ」といった経験は、

マイノリティー側の生徒の方が多く、

相談できる相手もいない、

といった姿が浮かび上がります。

同センターは「多様な性に対する理解を深める教育」

「相談できる場」が必要だと、

指摘しています。

 私が子どもの頃からつい最近まで、

身体が男性の性的マイノリティーを

「おかま」「ホモ」とからかうのは、

当たり前でした。

異性を好きにならないのは

変な性的嗜好があるからで、

それは正されるべきだとの考え方もありました。

男女が結婚して子どもが生まれる、

というのが幸福の典型として、

多くのテレビドラマ、映画で描かれ、

演歌でもポップスでも歌い上げられてきました。

常識として根を張っています。

しかし、マイノリティー側からみれば、

それこそ違和感のある考え方といえるかもしれません。

人を好きになる、ということは

人ぞれぞれの「気持ち」の動きであり、

他人の理屈とは違った次元のものだからです。

内なる声に従い、生まれついた身分を超えた

禁断の愛を貫く姿が美しく語られるのであれば、

性を超えるのだってありなのではないか、と。

とはいえ世の中は

常識を中心にして回っているのだから、

逆らえば居場所を失う。

気持ちを抑え込んで周囲に迎合するしかありませんが、

それが大きな負担になっていることは

上記のアンケート結果からもはっきりしています。

負担を和らげるためには、

マジョリティー側が「幸福のとらえ方が違う人もいる」

というスタンスを取り、

それを本気で表明し、

そのように振る舞うことが不可欠です。

 それは、だれにでもできることなのでしょうか。

 「いや頭の方じゃ分かっているけどね。

気持ちの方が、そうついてきちゃくれないんだよ」。

映画『男はつらいよ 純情篇』(1971年、山田洋次監督)で、

寅さんが、一人前になるまでは帰郷しないと

考えていても舞い戻ってしまう、

どうしようもない気持ちを表現した台詞です。

寅さんというキャラクターが

多くの人に愛されていることを踏まえると、

気持ちが理屈に「ついてきちゃくれない」ことに

同意する人もまた多いのではないでしょうか。

 仮に、親しい人が目の前で「自分は同性愛者だ」と

カミングアウトしたとしましょう。

私の場合、表面上は平静を保てるかもしれませんが、

ポリグラフで計測でもすれば

動揺が表れていると思います。

カミングアウトの主が自分の息子や娘だったら、

動揺どころではないはずです。

理屈で言えば目の前の人の気持ちを尊重すべきですが、

自分の気持ちはそれに「ついてきちゃくれない」気がするし、

それを乗り越える力が

私にあるのかどうか自信が持てません。

そんな私からみると、

カミングアウトするマイノリティーの人たちは、

強い突破力と、

その後のあれやこれやの反応に

立ち向かってやろうという胆力を備えています。

裏返せば、マイノリティーは

強くなければ自分の気持ち通りに生きられない。

強くないことは悪いことではないのに、

不当な苦労を強いられるとも言えそうです。

それに比べれば私の動揺など。

 性に関する理屈が変わりつつある、

あるいは変えていこうという動きが

活発化してきたこれからは、

マジョリティー側が努力をする番です。

しかし一体、

どう考えればスッと腑に落ちるのか。

寅さんに聞いてみたいところです。

「難しいこと言うねえ。

まあ、あれなんじゃないの。

例えば、ここに一人の人間がいたとする…」。

みなさん、続きを考えてみてください。

映画「男はつらいよ」には語るべきことが多く、語りたがる人も多い。難しいことを解きほぐしたいとき、寅さんの言葉は役に立つ

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA