⑰石巻の春

東京でフリーライターをしていたアラフィフシングル女子。東日本大震災を機に東北へ通い始め、2015年にはついに宮城県石巻市へ移住。現在は庭付き中古一軒家を購入し、会社も設立。愛猫のふーちゃんと共に大海原へ漕ぎだした、そんなドキドキハラハラな毎日を記していきます 

石巻の春

寒いよー、死ぬよー、と脅され続けた

中古一軒家での越冬。

よくぞ無事に春を迎えられました、

神様、ありがとう!

空を仰ぎ見、大声で叫びたい。

そんな気分であります。

 

同じ石巻でも、住む家が違えば、

冬の在り方が異なります。

移住して最初の年は、

知り合いの家に下宿させてもらったので、

ご家族と共に気密性が高い新築の家で、

ぬくぬく、贅沢な冬を過ごしていました。

翌年は、下宿を卒業し借りたアパートの部屋、

狭すぎましたがその分、

エアコンの効きが抜群で、

意外とイケるね、なんて思っていたものです。

ですから今年、3度目にして初めて、

私は東北の冬の厳しさをつくづく、

思い知ることとなりました。

推定、築60年の2階建て一軒家。

窓ガラスが多く、

夏はエアコン要らずで本当に快適ですが、

冬は隙間風がハンパではありません。

分かっていたので早々に、

ホームセンターで

半透明のプラスチック製ダンボールを購入。

すべての窓に貼り付けて、

しっかり対策を施しました。

それでも、我が家のカーテンは

いつもふわふわと揺れ動きます。

もちろん怪奇現象ではなく、

強烈に風が強い石巻あるあるです。

 

特に今年は珍しく、

石巻でも雪がどっさり積もりました。

どこへ行くにも、

急な坂道を下らねばならぬ我が家。

この時ほど、

車通勤だった会社を10月末で辞め、

家で仕事をするようになった我が身を

誉めたいと思ったことはありません。

 

雪かき用の大きなマイスコップも

今年初めて、ホームセンターで買ってみました。

が、いつ、どのタイミングで、

どこまで雪をかけばよいのかわからず、

二度ほどちょろっとチャレンジして、

すぐにやめてしまいました。

近くにスーパーもありませんが、

灯油さえきらさなければ、

数日、家を出なくてもなんとかなる。

気分はほとんど、

雪山の遭難者であります。

 

室内だというのに吐く息は白く、

朝起きると水という水、

すべてが凍っておりました。

湯舟にはったお風呂の水も、

お椀に入れた猫の飲み水も。

「水道管が破裂すると、

修理に何万円もかかるんだよね~」と

それまで話半分で聴いていた

街の人々のエピソードも、

一気に現実味を帯び、

恐怖で心も凍りました。

毎朝、祈るような気持ちで、

水道の蛇口をゆっくりとひねる。

出ない!!!!

と思いきや、

チョロッと来て、

ついにジャーッ!と開通した時のあの安堵感。

都会の人にわかるかなァ……。

わっかんねーだろーなァ。

 

日中は、愛猫のふーちゃんと

今年1月にやってきた黒猫のクロちゃんと共に、

4畳半のダイニングルームにこもりきり、

寒さをしのいでまいりました。

なるべく狭い空間にこもり、

そこだけきっちり温めるという、

寒冷地方の生活の知恵。

12畳もある自慢の大広間は寒すぎて、

ここ数カ月、

ほとんど灯りもつけていません。

 

トイレに行くのも寒いので、

家の中でも小走りになりました。

夜は覚悟を決めて、

1人と2匹、ダダッと走って2階の寝室へ。

真っ先に電気毛布のスイッチを入れ、

布団に潜り込み、

ぎゅうぎゅうに抱き合って、

温まるのを待ちます。

私はパジャマの上にチャンチャンコを着て、

寝る時用の靴下もはいて、

それでも肩回りがスースーと寒く、

夜中に何度も目が覚めます。

ふーちゃんとクロちゃんが左右に分かれ、

私の体にピッタリとくっついているので、

寝返りを打つのも一苦労。

それでも朝、必ず6時30分になると、

ふーちゃんがパッチリと目を覚まし、

早く起きてご飯をちょうだい!と

猛アピールしてきます。

しかし私はどうしても、

眠気と寒さに

打ち勝つことができません。

布団をすっぽり頭からかぶり、

そこからあと30分、

ふーちゃんの激しい攻撃に耐えるのが日課です。

 

そんな厳しすぎる石巻の冬も、

ようやくようやく、

終わろうとしています。

2011年、3月11日。

あの日も雪が降ったと話には聞いていたけれど、

今年ほど、

その厳しさを体感したことはありませんでした。

しかし、待ちに待った春の到来が

100%嬉しいかというと、

実はそうでもありません。

だって、花粉症!

まだストーブを手放せない寒さであるにもかかわらず、

目はしっかりかゆいという

この不条理はなんでしょう。

そして今日もあいかわらず、

石巻は風が強い。

なんだかとても、ソンな気分です。

 

そしてもうひとつ、

寂しいことが起きました。

ふーちゃんとクロちゃんがだんだんと、

陽当たりのいい別の部屋の窓際で、

過ごすことが多くなっています。

夜も、布団の中に潜り込み、

みんなでくっついて眠る必要が

なくなってきた模様……。

さみしい!

早くもほんの少し、

次の冬が待ち遠しいような

そんな気がしてきました。

寒い日の昼間はもっぱら、仕事場である4畳半のダイニングルームに集合!12畳もある和室は、冬の間は寒すぎて、まったく使えません。

塩坂佳子(しおさか・よしこ)

1970 年生まれ、大阪府高槻市出身。関西学院大学文学部卒業後はアルバイトなどを経験し、25歳でフリーランスのライター兼編集者として開業。2000年に大阪を出て、友人が住む小笠原諸島父島へ。釣り船の手伝いなどをして島暮らしを満喫、その様子を雑誌に連載するなどして2年間の長期滞在を楽しんだ。その後、板橋区へ移住し、東京でのライター・編集業を本格始動。主な仕事は結婚情報誌「ゼクシィ」や「婦人公論」などで執筆。出版社との契約で中国上海市に1年間駐在、現地編集部の立ち上げと雑誌創刊などにも関わった。

東日本大震災後は、震災ボランティアとして宮城県を中心に訪問。2013年には、上海在住のイラストレーター・ワタナベマキコと共に、東北の名産品をユニークなキャラクターにした東北応援プロジェクト「東北☆家族」を立ち上げ。東京に住まいながら活動を続け、2015年秋に宮城県石巻市へ移住。2年間は主に石巻市産業復興支援員として、復興や地方再生を促す街の情報発信を担当した。2017年9月には自分の会社を設立。現在は、自宅兼オフィスとして購入した築50年の庭付き中古一軒家をDIYでリノベーションしながら、愛猫・ふーちゃんと共に新生活をスタートさせたばかり。

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