⑳就活で試されるのは誰?

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

就活で試されるのは誰?

人手不足で学生の就職活動は

「売り手市場」だそうです。

長い氷河期が明けて楽勝なのでは、

と思いましたが、

案外そうではないのかもしれません。

採用する企業や送り出す大学が、

結構悩んでいるようなのです。

若者を社会人にするとはどういうことなのか、

彼らに何を求めるべきか、

といった問いに対する正解が

揺らいでいるようにみえます。

そんなときは若者が

しっかりするしかないわけで。

 最近の学生はなんと真面目なことか。

学生が企業で実際に働いてみる

インターンシップの世話役をしたときに、

ちょっと驚きました。

履歴書の自己PR文はびっしり。

大学3年生でしたが、

選挙事務所で働いた経験があるとか、

ボランティア活動で海外に行ったとか、

すでに有名企業でインターンシップを経験したとか。

学生なのに遊んでないのでしょうか。

そういえば2年生もいました。

そんな彼らに新聞記者の仕事を説明して、

記者会見に送り出し、

帰ってきたら原稿を書いてもらって

赤ペン先生のごとく手直しして。

それで色々お話ししますが、

「新聞社志望ではない」と

はっきり言う学生もいました。

まさに売り手市場ですね。

こびていません。

こちらとしては「いいのがいたら勧誘しよう」

という腹もあるのですが、

インターンシップは教育の一環、

学生の社会勉強と自己研鑽のためですから、

まあ仕方ありません。

 

「頭でっかちじゃ困るんだよなあ」。

ある銀行の幹部が言いました。

お酒の席で学生の就職活動について

話していたときのことです。

「論文のできがよくてもあまり関係ないし、

むしろ論文のうまいような子は、あんまりね」

だそうです。

酔っ払って表現がちょっと荒れていましたが、

本音でしょうね。

銀行のようなお堅い職場では、

就職試験で優秀な成績をおさめた若者であっても、

いわゆる雑巾がけからやらされます。

 

銀行に限らず、

大企業なら大体そうでしょう。

まずは、言われたことをやってみろ、

という日本の企業文化に染まり、

上りつめた人には、

「そうやって成功したんだ」という

自負がみなぎっています。

そのお酒の席で、

幹事が会費の計算に手間取っていると、

銀行幹部は「ちょっとかしてみ」と、

お金を手に取ると扇のように広げ、

ささっと数えてみせました。

「入行して十何年かは、

毎日こうやってたなあ」。

 

宴席には大学のエライ先生もいました。

私は頃合いを見計らって、

そそっと先生のそばに席を移しました。

そこでも学生の社会勉強について聞きました。

なんと、アルバイトでキャバクラの店長をしながら

医師になった学生がいるというのです。

コンプライアンス、コンプライアンスの世の中、

一歩間違えれば…と心配になるケースですが、

その先生は高く評価していました。

「そういうのが、マネジメント能力もあったりして、良いんだよ」。

医師という責任の重い仕事に

求められる資質を身につける場は、

大学病院だけではない。

患者と接し、医療チームをまとめていく上で、

人としての幅とか奥行きが必要とされるのだから、

欲望渦巻くキャバクラでの経験も悪くない、

大いに結構、というわけです。

しかし一方で先生は、

政府や経済界が「人材」を求め、

大学もそれに応えている現状には

忸怩たるものがあるといったようなことも言いました。

大学は教育機関、研究機関であって

社会人予備校が本来の姿ではない、

という建前は守りたいという意識があるそうです。

 

これからのニッポンのためには生産性を高めなきゃ、

そのためにはスペックの高い「人材」を、

頼むぜ大学、

というのは何だかなあ、とは私も思います。

とはいえ日々、労働する身としては

「頭でっかちじゃあね…」という気持ちもよく分かる。

働き方改革もあって、

今は仕事に対する社会のコンセンサスが

再構築される過渡期にあるのかもしれません。

 

私が学生時代は「面接の達人」といったような

就活のハウツー本がありました。

はそんなガイドも

あまり当てにならないのでしょう。

自分の頭で考えることが必要、となれば

真面目な学生が多いのもうなずけます。

買い物客でにぎわう大阪府内のショッピングモール。流通業界では人手不足が深刻という

粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

2 件のコメント

  • 毎回、たのしみに、刺劇的に、読ませていただいています。
    粂さんは、いま津支局長とのことですが、わたしは、3年前に、芸濃町椋本に伝わる獅子舞の映画を撮りました。
    『獅子が舞う 人が集う』というタイトルです。以来、住民さんとのお付き合いが続いています。
    ことしは、新作石巻映画『まだ見ぬまちへー小さなコミュニティの物語』の芸濃町上映会が予定されています。
    公式サイトhttps://aoikegumi.shinsaihatsu.com/madaminumachie/#Top
    自己紹介のつもりが自己宣伝になってしまいました。ご寛恕を。
    「よあけ前のねごと」これからも愛読させていただきます。

    また、わたしは「よあけのてがみ」シリーズのどれもを相当に興味深く読んでいます。

    • 青池さん、コメントありがとうございます!またいつも読んでくださっているとのこと、とても励みになります。これからも頭をひねって書かせていただきます!(粂)。石巻での映画上映、楽しみにしております!(編集部より)

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