⑱いざコスモポリタンに

大手新聞のベテラン記者が、世の中の出来事や自らの仕事、人生について語ります。私生活では高校生の長男と中学生の長女を持つ父。「よあけ前のねごと」と思って読んでみてください(筆者談)

いざコスモポリタンに

「とにかくインバウンド(訪日観光客)を増やせ」

というのが、

国内各地で最優先課題の一つとなっています。

中華圏が春節(旧正月)休暇に入る2月半ばは、

観光や流通業界の書き入れ時として定着しました。

大阪の道頓堀などでは聞こえてくる言葉は、

外国語の方が多いと感じるほどです。

日本の伝統文化も魅力的なようで、

神社やお寺をお参りする

外国人も少なくありません。

これぞ国際化の波。

日本にいながらにしてコスモポリタン

(世界主義者、国際人)に脱皮する

チャンスかもしれません。

あの国、そしてこの国の人たちを

よく観察してみましょう。

夜、大阪の地下鉄車内でのことです。

酔っ払いの男性がつり革を両手でつかみ、

頭をぐったり下げて、

大きく揺れながら回りの人に

肩や背中をぶつけていました。

酒臭いし見苦しいし、

腹立たしいばかりです。

見ているうちに、

隣の外国人男性(多分、欧米出身)に、

ぐでんぐでん、とぶつかっていきました。

するとその外国人男性は、

首をかしげながら肩をすくめてニッコリ。

映画でよく見る仕草です。

それまで酔っ払いに照準を定めて

視線ビームを放射していた私は少し驚き、

感心しました。

「そうか、誰でも酔っ払うことはあるし、

自分も回りに迷惑をかけたことはあるもんな」。

肩すくめニッコリは

「ついつい飲み過ぎちゃうよねえ、お互い」のサイン。

大人の対応ですな。

満員電車で体に鞄を押しつけられただけで、

キレるような日本人に見せてあげたい。

 

このところ「ニッポンは実は素敵だ」

「世界から賞賛されている」という

論調が強まっているように感じます。

テレビでは海外で日本人の行動が

ほめられたというニュースは繰り返し流され、

それをテーマにした番組も作られています。

卑下する必要はないと思いますが、

最近の日本文化礼賛はやや行き過ぎではないかと。

そうして日本を礼賛する人が、

中国や韓国をあざ笑うかのようなことを言ったりすると、

なんだか気分が悪くなります。

人を格付けして論評するような、

いわゆる「レッテル貼り」。

嫌な空気です。

私は超ドメスティックな人間で、

外国人と接したことはあまりないのですが、

少ない経験からみても、

レッテルとして使われる国民性は

あまり当てにならないような気がします。

神戸で勤務していたころ、

中国人留学生にエッセーを

書いてもらおうということになり、

私が原稿の受け渡しなどを担当しました。

中国に手厳しい産経新聞に寄稿なんかして大丈夫か、

とも思いましたが、

原稿をみてびっくり。

中国と中国共産党への批判一色でした。

正直なのは良いけれど

「こんなことをしたら、

帰国したとき大変なことになるよ」と、

軽い内容に書き直してもらいました。

中国人って抜け目のない

商人気質だと思っていましたが、

意外に不器用かも。

 

国際会議の取材でドイツに出張したとき、

プレスルームのファクシミリを

据え付けに来たおっさんのいい加減さに

翻弄されたこともあります。

ダブルのスーツに派手なネクタイ、

ビール腹。

うまく回線がつながらず、

肩すくめニッコリでしのぎきろうとするのです。

何かの拍子で回線が通じたときは、

両手を広げ満面の笑みで「君はラッキーだ」と。

ドイツ人は真面目で厳格なはずなのに、

と腹が立ちましたが、

語学力のない私は日本人らしく

微笑み返しました。

 

韓国・ソウルの観光産業の取材では、

米国批判のろうそくデモを冷ややかに眺める、

日本語ペラペラの大学生に出会いました。

国際問題になると感情を爆発させる韓国人、

というのはメディアが作った

イメージなのではと思わされました。

電子機器産業の取材で訪れた台湾では、

中年女性が「中国人は声が大きくてうるさいのよ。

田舎者ばっかり」と

日本語でまくし立てました。

日本人なら分かってくれるでしょ?

との含みがありましたが、

この女性の声は関西人基準からみても大き目で、

ちょっと困りました。

 

ニッポンって素晴らしい。

でもそれは一面でしかありません。

日本人はぶざまなこともしますが、

それもまた人格のごく一部だと思います。

当たり前の風習も

海外から見ればミステリアスだったり、

滑稽だったり。

一方、旅の恥はかき捨て的な

振る舞いをする外国人観光客が、

実は礼節をわきまえた

大人の可能性だってありますし、

その逆もまたあり得ます。

訪日外国人の増加はそうしたことを

日本にいながらにして感じ取るチャンスが

増えることでもあると思います。

街でちょっと面白いおっさん、

おばはんを見かけると

観察してしまう癖のある私は

忙しくなりそうです。

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粂 博之(くめ・ひろゆき)

1968年生まれ、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。平成4年、産経新聞社に入社。高松支局を振り出しに神戸総局、東京経済部、大阪経済部デスクなどを経て2017年10月から単身赴任で三重県の津支局長に。妻と高校生の長男、中学生の長女がいる。

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