⑧家の品格

東京でフリーライターをしていたアラフィフシングル女子。東日本大震災を機に東北へ通い始め、2015年にはついに宮城県石巻市へ移住。現在は庭付き中古一軒家を購入し、会社も設立。愛猫のふーちゃんと共に大海原へ漕ぎだした、そんなドキドキハラハラな毎日を記していきます 

家の品格

ネットの売り家情報で見つけ、

外観を見に行ってその家に興味を持った私は、

中も見てみたいと

さっそく不動産屋さんに連絡してみました。

しかし、電話口から聞こえてきた声は

意外にもやや慎重なトーン。

聞けば、その物件には

すでに何組も案内したが、

だいたい同じ理由で

毎回断られてきたそうな。

「場所がちょっと……不便なのかもしれません」

たしかに、

軽自動車でもギリギリと思われる

細くて急な坂道の途中にある家。

車社会の石巻では

敬遠されるかも知れません。

しかし、通勤通学に1時間以上はザラという

都会暮らしを考えれば、

多少の坂道など苦ではありません。

むしろ私が気になったのは、

立地よりも駐車場がないことと

トイレが汲み取り式であること。

私の実家も幼い頃は汲み取り式で、

お尻をのせると下に空いた穴から

ヌッと手が出てきそうで恐怖でした。

そんな嫌な思い出から、

「汲み取りだけはご免こうむりたい」

と思っていました。

それでもなお、

見に行ってみようと思ったのには、

やはり何か、

感じるものがあったのかもしれません。

私が既に外観を見に行った旨を伝えると、

とたんに相手の声は弾み、

それではさっそく明日にでも!

という話になりました。

建築士の友人に付き添ってもらい、

初めて家の中を見に行ったのは4月11日。

現地で待ち合わせた不動産屋さんは、

眼鏡をかけたかすれた声の

人が好さそうな男性。

見たところは30代と若いけれど、

名刺に代表取締役社長とあって

意外に思いました。

「家主さんは90代のおじいさんなのですが、

奥様に先立たれた後、ご病気になられて

関東にある息子さんの家で

療養されていたそうなんです。

その後に震災が起きて、

戻って来られないまま、

家を売ることにされたそうで。

なので、家財道具などは全部残っているのですが、

引き渡しの際には売り主さんの負担で

処分いただけるのでご安心ください」

薄い笑みを浮かべながら、

なぜか申し訳なさそうにそう言って

引き戸の玄関の鍵を開けてくれました。

 

中に入ると広いあがり框(かまち)があり、

プンと昭和の懐かしさが漂ってきました。

そして私は、

一瞬で魅せられたのであります。

 

大きな畳の間に残る

けして豪華というのではないけれど、

渋くて温かみのある調度品の数々。

見上げる位置の壁には、

ズラリと並ぶ家族たちの表彰状。

男女、数人の名前があるところを見ると、

お父さん、お母さん、

おそらく息子さんたちなどが、

多彩な道で優秀な成績を

いくつも収めたことがうかがえました。

子どもたちが幼い頃に描いたのであろう

柱の落書きや

机に貼ったシールが微笑ましく、

奥様が選ばれたと思われる

大量の花器や器などは

どれも本当にセンスがいい。

他人の家族の生活感が

なぜか嫌なものではなく、

むしろ教養や品のよさ、

温もりを感じさせる

心地のよいものだったのです。

 

そして、

お庭を眺める広縁には、

ロッキングチェアが1台。

「家には戻って来られなくても、

庭師に頼んでお庭だけは

つい最近までお手入れをされていたそうです」

不動産屋さんがかすれた声で、

そう教えてくれました。

90代でご存命という売り主のおじいさん。

この家での最後は一人暮らしとなって、

毎日ここに座り、

自慢のお庭を眺めていらしたのではあるまいか……。

想像すると、

家族で住んだ家を手放す無念さも

迫ってくるようです。

そんな家に宿る家族のストーリーが、

ほとんど冗談で見に来た私を

魅了してやみませんでした。

(つづく)

2017年もあと1週間で終わり、という今日、石巻は朝から珍しいほどの積雪。我が家の庭も情緒たっぷりです

塩坂佳子(しおさか・よしこ)

1970 年生まれ、大阪府高槻市出身。関西学院大学文学部卒業後はアルバイトなどを経験し、25歳でフリーランスのライター兼編集者として開業。2000年に大阪を出て、友人が住む小笠原諸島父島へ。釣り船の手伝いなどをして島暮らしを満喫、その様子を雑誌に連載するなどして2年間の長期滞在を楽しんだ。その後、板橋区へ移住し、東京でのライター・編集業を本格始動。主な仕事は結婚情報誌「ゼクシィ」や「婦人公論」などで執筆。出版社との契約で中国上海市に1年間駐在、現地編集部の立ち上げと雑誌創刊などにも関わった。

東日本大震災後は、震災ボランティアとして宮城県を中心に訪問。2013年には、上海在住のイラストレーター・ワタナベマキコと共に、東北の名産品をユニークなキャラクターにした東北応援プロジェクト「東北☆家族」を立ち上げ。東京に住まいながら活動を続け、2015年秋に宮城県石巻市へ移住。2年間は主に石巻市産業復興支援員として、復興や地方再生を促す街の情報発信を担当した。2017年9月には自分の会社を設立。現在は、自宅兼オフィスとして購入した築50年の庭付き中古一軒家をDIYでリノベーションしながら、愛猫・ふーちゃんと共に新生活をスタートさせたばかり。

 

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