⑦乞えないホームレス

東日本大震災が起きるまでは、福島県との県境に近い宮城県丸森町の里山で、家を手作りし、自給自足に近い生活を送っていた5人家族。原発事故の一報を受け、夫の母国、イギリスへ渡ることを決断。着の身着のまま日本を脱出したあの時から今日までを妻であり母である、チエミが振り返ります

乞えないホームレス

もうすぐクリスマスがやってきますね。

キリスト教信者は慎みやかに

イエスキリストの誕生を祝い、

そうでない人たちには、

お盆とお正月が一緒に来たような

家族行事として祝うのが、

イギリスの一般的なクリスマスです。

先日、買い物客でにぎわう商店街を歩いていたら、

紙袋を持った13~14歳くらいの男の子が2人、

さっと私の前に現れて、

こう言いました。

「香水2個で安く売れるけどいらない?」

紙袋の中には新品の香水が

5,6個入っていました。

こんな光景に、

毎年この時期になると何度か出くわします。

卸値で入手した商品を道行く人に売って、

クリスマス休暇のための

お小遣いを稼いでいるのです。

買ってあげる大人も少なくはないようです。

商品にお金を払うというよりは、

その子供たちのたくましさを

買っているのかもしれません。

家々を一軒一軒まわり、

自分が書いた絵を売る盲目の人や

小さい子供を連れて

手作りのバスケットを売りに来る移民たちの姿も、

毎年この時期になるとよく見かけます。

ポーランドから移住してきたばかりの近所の女性は、

まだ仕事が見つからないので、

自分が作った編み物に

値段をつけて家の窓やドアに飾り、

通りすがりの人に売って

少しでも生活費を稼ごうとしています。

子供たちを連れて日本に帰省した時に、

東京の上野公園近辺で

数人のホームレスがゴミ箱をあさり、

缶や瓶、雑誌類を集めている姿を目にした

12歳の息子がこんなことを言いました。

「この人たちはホームレスなのになぜ働いてるの?

『お金下さい』って通行人に言えばいいのに」

そう言って息子は

自分の財布から100円を出して、

恐る恐る一人の高齢のホームレスに近づいていき、

そのお金を渡しました。

 確かにイギリスでは、

ホームレスが通りすがりの人に

「お金をください」と近寄ってきて、

通行人も、ポケットにある小銭を出して

渡すのは普通のことです。

私たち家族も、

毎日のように会うホームレスとは顔なじみで、

世間話をしたり、

寒い日には温かい飲み物とクッキーを買って

渡すこともあります。

いろいろな理由で、

楽ではない境遇で暮らす人々が

たくさんいるということを

ヨーロッパの中心であり、

移民の国であるイギリスに来て

まざまざと見せつけられています。

そんな中でも、バイタリティーを持って

自分なりの打開策を実行したり、

「助けて」と近くにいる見知らぬ人に

自分から訴えかけることが許され、

それに手を貸してくれる人が

必ずどこかにいる。

そんな社会であることは

彼らにとっては救いかもしれません。

日本で大人になった私には、

こんな風に「ホームレスが堂々と乞える社会」は、

ある意味とても健全に映ります。

私の冬の必需品。 太陽光と同じ波長の光を出す医療用ランプとビタミンDサプリメント。 イギリスの冬はぐんと日照時間が短くなり、 天気も悪く暗い日が続きます

【オールライト千栄美】:1972年石巻市生まれ。イギリス人の夫と長女(16歳)、長男(15歳)、次男(12歳)の5人家族。再生可能な環境開発を専門とする夫と共に、“都会とは全く違う環境で行う、ビジネスマン向けリトリート施設の建設”という構想を抱き、2008年、宮城県と福島県の境にある小さな山里に移住。その構想の第一歩として、“西洋と東洋の伝統に自然を融合させた新しい技術”をコンセプトにした家づくりを2011年3月11日午後2時45分(つまり、東日本大震災勃発の瞬間)まで家族で行う。その後、夫の母国イギリスへ。現在は、オンラインで日本に英語レッスンをお届けする【英語職人】を生業とする。https://chiemiallwright.wixsite.com/online-eikaiwa

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA